謂れ無き存在 ⅣⅩⅧ
「何が、知りたいの?」
「ええ、ん~、実は、母さんのお墓を知りたい。それに、母さんの最後の場所・・」
心の奥にわだかまりを感じているせいか、俺はぎこちなく話す。
「お母さん! 私たちの結婚をお墓で報告したいの。それと、その命を絶った場所へ行き、彼の母親へのこだわりを整理させたいと思っているわ」
真美はストレートに俺の気持ちを代弁する。聞きながら、彼女らしい説明のやり方だと感心した。
「そうね、良い時期かもしれない。きちんと弔い、あなたたちの未来を考えるべきね」
真美の意見を、明恵母さんは直ぐに理解してくれた。
「ありがとう、お母さん・・」
真美は礼を言った。俺は椅子から立ち上がり、黙ったまま頭を下げるしかなかった。
「そんな改まった礼など、必要ないわ。私の方が、謝ることよ」
明恵母さんは、遠い記憶を呼び戻す。複雑な感情が絡み合い、適した言葉を探すのに苦労しているようだ。
「洸輝君・・。お母さんのお墓は、私たちのお墓の横よ」
「えっ? 明恵母さんたちの横に? どうして、ですか?」
明恵母さんが経緯を話し始める。時折、辛そうに言葉を飲み込む。
「身投げしたから、身内の誰も受け入れてくれず・・。私は思い余って主人に相談したの。主人は悩んだ末に、実家の墓地内に小さなお墓を・・。だから、近くに・・」
俺の心は、不自然に動揺する。この感情を、どう解釈すれば良いのか。
「お母さん、あなたの優しい気持ち理解できるわ。それに、お父さんが大好きになった」
《あ~、真美! 君はなんと素晴らしい感情を持っているんだ。確かに、君の言うとおりだ。明恵母さんにオヤジさん、このふたりは、俺にとって大事な人になった》
「あら、今ごろ気付いたの。これからは幸せな家族に、そうでしょう?」
真美の誇らしげな顔、俺は頷くしかなかった。
「ああ、今になって気付いた。真美のお陰だよ」
「じゃあ、ご褒美は・・」
怪しい暗黙の要求。俺の全身に電気が走り抜ける。
「後でね・・」
「楽しみにしているわ」
俺は彼女の色香に撃ち落された。
明恵母さんは一口の紅茶を飲むと、話を再開した。
「洸輝君のお母さんが、最後の場所として選んだのは・・」