ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

  嫌われしもの 遥かな旅 ⅢⅩⅧ 

 ワシは相手にしない。目を閉じ、現実には有りえないことを脳裏に描く。
《神様から不死の体に大きな翅を与えられ、空高く遠くへと飛び回る。もちろん、マリアブリータのブラジルへ・・。むふふ・・》
「うう・・。リーダー、起きてください。寒・・い・・よ~」
 ぐっすりと寝てしまったワシを、懸命に黒ピカが揺り起こした。
「むむ・・、なんだ! 最高の夢を見ていたのに・・」
「寒くて、腹が減って、死にそうです」
「一万メートル上空を飛んでいる。寒いのは当たり前だ。人間どもは死んでしまうが、ワシらは平気だ。たった、十時間だけ耐えろ!」
「え~、十時間ですか?」
「そうだ! 楽しい夢を見ていれば、時間が過ぎる。次は、インド洋の楽園モルディブだ。だが、降りない」
「もう、いいです」
 ヤツは不貞腐れた態度を見せた。
 やがて、モルディブ空港に到着した。機体の下が開く。南の楽園らしい爽やかな風が、貨物室に吹き込んだ。
「リーダー、地獄から天国に降りたようですね。あ~ぁ、気持ちがいい。ゴキジョージのハワイは、こんな感じですよね」
「うん、こんな感じだ。ワシは日本へ帰ったら、ゴキ江と一緒に南の島で暮らす」
 黒ピカが、信じられない顔で聞く。
「えっ、どこの天国ですか?」
「天国ではない! ワシは、まだ死なない。いや、天国へ行くための島かも・・。ゴキ江と相談してから、決める予定だ」
 すると、ヤツはワシの触角を強く引っ張り、真剣になる。
「決まったら、必ずオイラに教えてください。オイラは親に何もできなかった。だから、リーダーに恩返しをしたい」
「な、な、なんだ・・」
《何を言う。ワシは・・、お前に親らしいことを、何もできなかった》
 ワシは、どのように受け止め、なんと答えれば良いのか心が痛む。
「ねえ、リーダー! 構わないでしょう。だめですか?」
「む、むむ・・」
「だめでもいいです。オイラは勝手にやりますから・・」
 その瞬間、貨物室の扉が閉まる。黒ピカの嫌いなジェット音が、二匹の会話を消し去った。滑走路から、再び日本に向けて飛び立つ。
 黒ピカが怖さと寒さに耐えている間、ワシは涙を必死に堪え続けた。

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