嫌われしもの 遥かな旅 Ⅲ
「今日はこれで散会する。近頃、野良猫に食べられる事件が絶えない。くれぐれも用心して帰ってくれ」
集まったものたちは、別れを惜しみながらソロソロとその場から立ち去った。
「黒ピカよ!」
「はい、リーダー・・」
「出発まで、この公園で過ごす。棲み処に戻っても、命の保証はないからな。この場所にこっそり隠れているほうが安心だ。昼はカラスに注意し、夜はカマキリや蜘蛛に警戒すればいい」
「リーダー、カエルやヘビも油断なりません!」
「そうだな、ワシらには敵しかおらん。カマキリは近縁というのに、腹が立つやつらだ。ワシらほど平和な生き物はいない。それを誰も理解しないとは、道理から外れておる」
「ところで、腹が減りませんか? 朝から何も食べていないので・・」
「おっ、気が合うな! ワシも同じことを考えていたところだ。イライラすると余計に腹が減るからな」
近くの木に登り、新鮮な樹液を舐める。人間どもの残飯よりうまいと感じた。腹を満たすと、サッと地面に降りて草むらの中へ隠れる。
「ところで、ブラジルには何で行くのですか?」
「まず、近くの駅から新幹線に乗って東京へ向かう。次に成田エクスプレスで、成田国際空港へ・・」
「それなら、駅前から空港行きのリムジン・バスに乗れば・・」
「そうか、その手もあったか! お前は偉いぞ。先輩の話では、昔は横浜港から貨客船で行ったそうだが、一ヶ月半も船に乗っていたという。今は、飛行機で簡単・・。ん・・?
ちょっと、静かに!」
ワシは、近くで動く気配を感じ、黒ピカに用心させた。すると、ひょっこり目の前に現れたのは、妻のゴキ江であった。
「ゴキ江か! びっくりするじゃないか。どうして、ここに?」
「あ~、会えて良かったわ。日本支部から知らせが来たの」
「黒ピカよ、ワシの五番目の妻だ」
「初めまして、ゴキ江よ」
愛くるしい仕草で挨拶した。
「こ、こ、こちらこそ・・。く、く、黒ピカです」
「まあ~、そうなの? 若くて頼もしい青年ね。あなたに似ているわね。うふふ・・」
《ま、まずい。その言葉はダメだ。禁句!》
「いや、そんなことはない。全然、どこも似ていないぞ」
慌てるワシを見て、ゴキ江は喜んでいる。
「あら、そうかしら。でも、あなた似の黒ピカさんが一緒なら、安心したわ。主人をお願いね」
「黒ピカ! 何をそわそわしている。しゃんとしないか! 不思議なヤツだな」