嫌われしもの 遥かな旅 Ⅱ
「さ~てな。ワシらの仲間は寒さに弱いからなぁ~。世界中と言っても、温暖な国や熱帯雨林からの参加が多いはずだ。この地球上には、およそ四千種、一兆四千八百億匹が生息している。参加数は全く想像がつかん。だから、ワクワクしているよ。講演は仲間の夢について、話す予定だ」
「じゃ~ぁ、日本の仲間は~、どれほど・・、いるのかしら~?」
ブリ子が艶めかしくウットリとした声で聞く。ワシは、その声に目を細めた。
「フフフ・・、そうよな~、約五十種二百三十億匹いるそうだ」
「えっ、ワォ~、私のタイプが~、沢山いそうねぇ~。きっと、目移りしちゃうわ。頑張って、ダイエットしなきゃ~」
「何を言う! ブリ子は、そのままでも美しい!」
「そうだ、そうだ、俺ではダメか?」
「まあ、まあ、その話は集会の後にしてくれ」
その時、若い世代の新しいリーダーに選ばれた黒ピカが、前に飛び出した。
「驚き、桃の木、山椒の木だな。尊敬するゴキ太さん! オイラをお供に選んでください。ぜひ、お願いします」
《おっ、自分から名乗り出てくれたぞ。最初からお前を考えていたんだ。名指しで誘えば、不公平と思われてしまう・・。お前と旅ができるなんて、ワシは幸せ者よ。》
「ああ、黒ピカよ! いいだろう。ワシも誰かを連れて行こうと、考えていたところだ」
「ありがとうございます。誠心誠意頑張ります。ん? どうして、オイラの名前を?」
《あっ、まずいことを言った・・》
「いいや、名前は言ってない。お前の空耳だろう。しかしだな、道中は危険だらけだ。二度と帰れないかも、知れんぞ!」
「心得ております。どこに住んでいても、常に命の保証はありません。憧れの外国へ行けるなら、覚悟はできています。でも、リーダーとなら安心だと思います」
《育ての親から聞いていたが、立派に成長したものだ。あ~ぁ、黒ピカよ》
周囲のものが黒ピカを羨ましく思い、翅を擦り触角をユサユサと動かした。
「皆の気持ちは分かるが、多数で行動すれば人間どもに見つかる。化け物が現れた『キャア~』と悲鳴を上げ、ワシらに殺虫剤スプレーを浴びせる。ワシらは化け物ではない。れっきとした虫だ。したがって、今回は黒ピカとワシだけで行く」
「ブリ太郎、みんな、オイラは必ず帰って来る。体験したことを伝えるからな・・」
「うん、でも油断するな! お前ならできる。羨ましいけど、ボクには勇気が無くて残念だ。楽しみに待っているからな。でも、ちょっぴり心配だ」
「あん? 何が心配なんだ?」
「お前さぁ、外国語が喋れないだろう?」
「喋れるさ!」
黒ピカは痛いところを突かれ、向きになって答える。
「そうか、安心した。じゃぁ、外国の可愛い子と友達になれるね・・」
「ああ、楽しみだ。オイラの青春の旅だからな・・」