ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第七章 Ⅵ

 祭壇の上から優しい笑顔に愁いを帯びた瞳。輝明にとって、決して忘れない愛する千香の顔である。亜紀には、心を許せた最愛の友であり、彼を結び付けた恩人でもあった。
「不思議ね、私が、千香の家族として見送るなんて・・」
「うん、不思議なことだね。これも偶然かな?」
「そうね、千香が笑っている。そうよ、偶然なのよって・・」
 形なりの葬儀が終わり、バスと車で寺尾の斎場へ向かう。千香の白い棺が、霊柩車から降ろされ炉に納まる。重い扉がドスンと音を立て、双方の未練を断ち切り固く閉まった。その音は見送り人の心を大きく揺さぶり、抑え切れない声を叫ばせた。
「ママ~」
「母さ~ん」
「チア、チア~」
 輝明と千香は必死に堪え、心の内で叫ぶ。
《千香、千香ちゃん!》
 炉のスイッチがオンされ、ゴーッと無情の音が耳に響き渡る。
「母さん、母さん・・」
「ママ、嫌、嫌よ~」
 輝明は拳を握りしめ、天を仰ぐ。亜紀は体を震わせながら、輝明の背に顔を寄せた。マルコスが、顔をくしゃくしゃにして貴志と奈美の肩を抱く。耐えられない輝明は、亜紀の手を握り表に逃げ出した。外の冷たい空気を吸い込み、そばだつ煙突を見上げる。新しい煙が北風に煽られ、四方へと自由に流れて行く。
「亜紀さん、見てご覧よ。千香ちゃんの煙が自由気ままに飛び回っている。いつでもブラジルへ行けると、喜んでいるかもしれないね」
「千香のことは悲しいけど、そのように思えば辛さが和むわ。千香、いつでも待っているからね」
 いつの間にか、貴志とマルコスが奈美を連れて、煙突の煙を一緒に眺めた。
「輝叔父さんの発想って、ユニークね。ママは、いつも喜んでいたもの」
「じゃぁ、これからは奈美ちゃんに喜んでもらうかな?」
「ダメよ。輝叔父さんは、亜紀さんにすればいいの。私は輝叔父さんに似た男性を探すから、必要ないわ」
「それは、残念だ」
 千香の遺骨は、神戸の橋本家の墓に納骨するまで、輝明の家に預かる。二日後、心の整理がついた貴志と奈美は、マルコスを連れて東京に戻った。
「貴志さん、奈美さん、マルコスをお願いね!」
「マルコスは、私の弟だから心配しないで・・」
「ええ、母さんは、ブラジルに大好きな子がいるって、常に言ってました。だから、マルコスは僕らの弟です」
「うん、マルシア! 兄さんと姉さんができた。とても幸せだよ」
 亜紀は涙を潤ませ、マルコスを抱きしめる。そして、貴志と奈美にもハグをした。

×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。