ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第七章 Ⅴ

 兄夫婦に、亜紀とマルコスを初めて紹介する。
「亜紀さん、輝坊を宜しく。今、祝うことができない状況で申し訳ない。滞在中に、ゆっくり食事をしたいと考えている」
「いいえ、お兄さんのお気持ちだけで十分です。彼がマルコスです」
 マルコスは緊張して、顔を下に向けていた。
「ええ、承知しています。マルコス君、宜しくね」
 マルコスは顔を向け、真面目に頭を下げる。輝明が彼の肩を抱き寄せ、緊張を和らげた。売店から缶コーヒーを買って、テーブルに並べる兄嫁。
「心配していた輝ちゃんに、奥さんと息子が一度にできた。これでお父さんもホッとしたでしょう。さあ、飲んでちょうだいね」
「あ、姉さん、ありがとう。はい、マルコスも飲んで・・」
「嫁と甥が一遍にでき、喜ばしいことだ。デレデレとした輝坊の顔は、本当にみっともない顔だなぁ」
 横でにこにこしていた輝明は、兄の言葉にムッとする。その様子に、亜紀は目を丸くして笑い出す。半時ほど雑談してから、兄夫婦は帰って行った。
 千香の意識は戻らないまま、二日が経った。昨晩未明から雪が降り始め、朝には薄っすらと積もる。
 輝明の肩に頭を乗せ、うたた寝をする亜紀。千香の様子を時折見ながら、オマル・ハイヤームのルバイヤート(四行詩)を読んでいた輝明。一定のリズムを刻んでいたモニターの電子音が、突如、聴き慣れないピーッという不可解な電子音に変わった。
 輝明は慌てて亜紀を起こし、コールボタンを押した。直ぐに夜間当直の看護師が駆けつけ、状況を判断すると院内携帯で当直医に知らせる。医師が来る間、輝明は貴志と奈美に連絡。兄とマルコスにも伝えた。
 病室に戻る。亜紀の手を握りながら、医師の言葉を待った。
「二月三日午前五時十二分、患者様は息を引き取りました。お悔やみ申し上げます」
 輝明と亜紀は互いの手をしっかり握りしめ、医師に対し静かに黙礼する。医師と看護師が病室から出て行った。室内は三人だけになった。ベッド横にふたりは並んで座り、千香の眠る顔を見詰める。
「千香ちゃん、お疲れ様。ようやく苦しみから解放されたね。さようなら・・」
「千香・・、なんて優しい顔なの。いつまでも、あなたが好き・・」
 輝明は横に座る亜紀の肩を、静かに抱き寄せる。時の経過を感じることなく、ふたりの体は動くことを忘れてしまった。
 知らせたを聞いた全員が揃う。死後措置が始まるまで、母の体にしがみつく奈美。貴志が妹を必死に説得した。
 措置が済むまでロビーで待たされた。マルコスが亜紀を手伝い、自販機の熱い飲み物を買ってみんなに配る。
 輝明は貴志を呼び、兄と相談して葬儀社を手配した。葬儀は貴志の考えで、簡素なセレモニー・ホールの家族葬を選んだ。

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