ウイルソン金井

創作小説。ロマンス、怪奇、ユーモアなど。多岐チャレンジ中。

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第七章 Ⅶ 

 翌日、輝明と亜紀は伊香保温泉に出掛ける。その途中、水澤観音を参詣してから、忘れ水が流れる場所を訪れたいと、亜紀が希望した。以前には無かった裏手の駐車場に車を停め、登山口に向かう。
「あら、随分変わってしまったのね」
 現在は、登山口から頂上まで整備されている。
「そうさ、若くないボクにも無理なく登れる。度々訪れても、苦にはならなかったよ」
「そうなの? そんなに来ていたんだ輝君は・・」
 輝明は流れを確認するたびに、亜紀への思いが募る。亜紀を探しにブラジルまで行ったが、願いは叶わなかった。それでも忘れ水が枯れない限り、亜紀は必ず生きていると信じ続けたのである。
「この時期は、道がぬかって危険だから、あの場所までだね」
「ええ、分かっているわ」
 幾度となく訪れた場所へ、亜紀を導く。今回は迷うことなく、彼女の手をしっかり握り締めて登る。その場所に辿り着くと、輝明は後ろから彼女を支える。
 亜紀は雪を払い、思い出の忘れ水を目の当たりにする。雪解けの激しい流れの忘れ水に、躊躇することなく指を浸す。亜紀は濡れた指を自らの唇に触れ、そして、その指を後ろで支える輝明の唇に触れさせた。
 輝明の脳裏が瞬時に、三十年前の思いを蘇えらせる。彼は、亜紀の白いうなじに唇を寄せ、強く抱き締めることができた。
「あ~、あの頃に戻りたい。あ~、輝君・・。でも、これがあなたと私の運命なのね。諦めるしかない・・」
「うん、辛い過去だった。それでも、こうしてボクの忘れ水が、あなたに認められた。これが運命なら本望です」
「ええ、確かに・・、そうね」
 ふたりは体の体制を戻し、向き合って抱き合う。ふたりの瞳は絡み合い、激しく口づけを交わした。
 山を下り、駐車場の車に戻った。冷えた体を温めるため、家から用意した熱い紅茶をカップに注ぎ、前方の景色を楽しみながら飲んだ。
「でもね、千香ちゃんが僕には見えない忘れ水があると、手紙に書いて寄越したことがある。だから、千香ちゃんの忘れ水を懸命に探した。残念だが、見つからなかった」
「え~、本当に? そんな手紙をあなたに送っていたの」
「うん、亜紀さんが見つかったことを、知らせてきた手紙にね。それも、ボクに書いた最初で最後の手紙だった」
「それで、見つかったの?」
「いや・・、でもね、千香ちゃんの忘れ水は、地表から奥深くに流れている。だから、千香ちゃんの心に流れている忘れ水だと気付いた」
「そうよ、千香は彼女らしい愛情を感じさせたわ。あなたに・・」
「ボクも、そう思います。さて、千香ちゃんが最も楽しみにしていた、伊香保温泉に行きましょうか?」
 

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