青き残月(老少不定) Ⅳ
柴田君の家の窓は、カーテンがしっかりと閉じられていた。庭から呼び掛けるが反応しない。野中先生は用意していた手紙を、玄関の戸口の隙間に挟んだ。
「柴田君、来週にお母さんと一緒に来てね」
姿の見えない相手に声を掛けた。
「松原君が待っているよ。一度、顔を見せてあげてね」
私も姿を現さない柴田君へ伝える。
「さあ、帰りましょう。来週のカンセリングに来られよう、お母さんにお願いしておきました」
学校に戻ると、四校時が始まっていた。私は三階のゆうあい教室へ行く。松原君は奥の長テーブルに座り、小池先生と高崎かるた(郷土かるた)をしていた。
「宮崎先生! カルタをやりませんか? 浩ちゃんが強くて、私ではだめです・・」
小池先生は、私を見るなり救いを求めた。
「浩ちゃん、柴田君の家に行ってきたよ。会えなかったけど、来週の水曜日に学校へ来るよう伝えたからね」
松原君は、首を傾げながら私の目を見る。
「本当! 先生、本当に来るの? 早く会いたいな。入学式の時に約束したんだ。一緒に勉強しようって、楽しみだな」
低い声を喜びで押し上げた。
「そうさ、私だって楽しみだ。まだ会ったことがないからね」
「良かったね、浩ちゃん。小学校が同じだったものね」
「うん、小池先生。そうだよ」
私はテーブル越しにハイタッチして、松原君の前に座った。
彼は急いでテーブルの上にカルタを並べた。私は軽い気持ちで対応する。松原君の顔を見ると、凄い眼差しで真剣モードになっている。私は「ワォー」と声を上げそうになり、咄嗟に小池先生の顔を見てしまった。
小池先生は、私の気持ちを察したのか、満面に笑みを浮かべている。
小池先生の読みに合わせて、カルタ取りが始まった。まごまごしている間に、終わってしまった。大差である。私はたった八枚。それから二回続けてやったが、同じ枚数しか取れない。
彼は、私に「どうだ」と言わんばかりの顔。小池先生は横を向いて必死に笑いを堪えている。再挑戦と思ったが、四校時終了のチャイムが鳴ったので断念した。
昼休みに、ゆうあい担当の佐野先生が声を掛けてきた。
「浩ちゃんとカルタ取りをしたそうですね。ありがとうございます。とても喜んでいました。先生が大好きな様子でした」
「いいえ、とんでもない。しかし、松原君は強い。私は大差で負けました。アッハハハ・・」
負けて悔しいが、笑った。
「先生は、カルタの頭文字を探しているでしょう。浩ちゃんは、カルタの絵を全て覚えているの。それで、探すのが早いのよ・・」
「絵? なるほど。文字ではなく、絵を探しているのかぁ」
私は感心して、相手の強さに納得する。次に対戦する時は、私も絵を探そうと考えた。