ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

青き残月(老少不定) Ⅲ

 スクール・カンセラーの野中先生が、私に近寄って来た。
「宮崎先生、今日は不登校生徒の家へ訪問しますか?」
「はい、これから出かけようと思っていました」
 野中先生は、毎週水曜日に生徒や保護者のカウンセリングを担当している。
「では、私も柴田君の家に訪問したいので、一緒にどうですか?」
「ええ、構いませんよ。」
「じゃあ、お願いします」
 今日の相談予定が午後の遅い時間になっているため、予定の無い午前に訪問を考えたようだ。
「ところで、柴田君って誰ですか。初めて聞く名前ですね」
「ああ、ゆうあい教室の生徒です。入学式以来、まだ一度も登校していません」
「それは心配ですね」
 横山教頭に報告してから、私の車で出掛けた。
 最初に、私が担当している三年生の山内健吾と藤田可奈の家に向かった。藤田の家に行くと、本人の自転車が見当たらない。他校の生徒の家に泊まっているのであろう。次に、近くに住む山内の家へ行く。家の北側にある窓から中を覗いた。タオルケット一枚を体に巻きつけて、ぐっすり眠っている山内健吾の姿があった。
「健吾、もう起きろよ。今何時だと思っている」
 私が声を掛けても、わずかな動きも見せない。
「明日は、必ず登校しなよ。給食はお前の好きなカレーだぞ。いいな、待っているよ」
 頷いたと感じられたので、窓から離れた。
「そこにいるのは、誰かな?」
 野中先生が、奥のドアの陰に隠れ、隙間から覗く人影を見つける。妹の小学二年の笑美ちゃんが、照れくさそうな顔で現れた。
「あっ、笑美ちゃんがいたんだ」
 私が優しく声を掛ける。
「こんにちは、学校をお休みしちゃったのかな」
 見知らぬ野中先生の言葉に、小さく頷いたが緊張した様子。
「笑美ちゃん、朝ご飯は食べたの?」
 私が救いの声を掛けたので、笑顔が戻る。
「うん。これから、おばあちゃんの家に行くの」
「そうか、いっぱい食べるんだよ。またね!」
「バイバイ!」
 幼い仕草で手を振った。
 柴田君の家へ向かう車中。不登校の現状を話し合うことができた。
「野中先生。以前は、陰湿ないじめや成績不振、部活動の失態などで同級生や教師と溝を作り不登校になるケースが多かったですよね」
「ええ、今は、急激な社会の変容(スマホのライン問題、ゲームによる昼夜逆転生活)によって、心を病み他人との接触に精神的に不安を抱く。それに複雑な家庭環境(離婚、再婚や家庭内暴力など)から、他の生徒の視線を極端に嫌い避ける傾向がありますね」
「野中先生の担当は、精神的に不安を抱く生徒とその家族のケアーと思われますが、私の場合は不安を反社会的な行動に出る生徒が中心ですよ」
「確かに、そうです。宮崎先生が指導する生徒は、学校側が最も苦慮する生徒たち。校内の器物を壊したり、授業を妨害し他の生徒に迷惑を掛ける。私の時代にもいましたがね」
「現代は、他校の生徒と合流して警察沙汰に発展。でも、昔は強い番長がいて正義感があった。逆に他校から自校の生徒を守りましたね。アッハハハ・・」
「そうそう、このメンバーは本音で向き合え、意外に先生と疎通があった」
「野中先生が担当する生徒は、心の繊維が極めて細く複雑に絡む。専門的知識のない私では難しい面もある」
「・・・」

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