ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅩⅨ 

 その後、寮生活にも慣れ、平凡な日々が過ぎて行く。
 七月の日曜日に、寮生のひとり山倉が結婚した。相手の実家がある田園調布の教会で、結婚式を挙げる。俺たち全員が参列。教会の結婚式は、初めての経験だった。
 その夜、俺は夢を見た。教会で結婚式を挙げる俺がいる。聖壇の前に立ち、花嫁を待っていた。オルガンが鳴り響き、花嫁がバージンロードを厳かに歩いて来る。
 神父に勧められ、花嫁のベールを持ち上げた。ベールを持つ手が、震える。
「ち、違う。知らない・・、誰なんだ?」
 ベールに隠された女性は、あの人ではなかった。
 突然に目を覚ました。時計を見ると、真夜中の1時過ぎだった。再びベッドに横たわるが、目が冴え眠れない。朝まで悶々と過ごす。授業中も頭から離れない。
 午後の授業が終わり寮に戻ると、俺宛に手紙が届いていた。見慣れたあの人の文字である。急ぎ部屋に戻り、封を開けた。
 あの人は大学を諦め、料理学校へ通っていた。近々、目黒の伯母の家から、高崎に帰るという。次の日曜日に俺と会えるかの、問い合わせの内容だった。
 夕食後、手紙に書かれている電話番号へ、俺は掛けた。3回目のコールで、受話器から懐かしいあの人の声が耳に響く。久々に俺の心がときめく。
「もしもし、元気だった?」
「やあ、どうにか元気にしているよ。君は?」
「ええ、私も・・」
「そう、それなら良かったね」
 二人の会話は、ぎこちない話し方だ。俺の脳は、過去の楽しい思い出を探し求める。
「それで、次の日曜日に会えるかしら?」
 俺は素直に答える勇気が出て来ない。でも、会いたいことは、事実だった。
「うん、俺も会いたいと思っていた」
 あの人は、場所と時間を知らせた。俺は承諾する。
「じゃ、その時まで・・」
「ああ、楽しみにしている」
 受話器を置いた。昔の俺だったら直ぐに切らず、できる限り会話を延ばしたはず。

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