ウイルソン金井

創作小説。ロマンス、怪奇、ユーモアなど。多岐チャレンジ中。

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第六章 Ⅰ

 エレベーターでロビーに降りると、レンタル会社の社員が待っていた。車のキーを渡して請求書を受け取る。輝明は、千香の子供たちに連絡し、病院の住所と電話番号を知らせた。車の移動を心配していたが、無事に転院できたので安堵した様子。明日の午後、奈美が病院に訪れる約束をして電話を切った。
 輝明はタクシーを呼び、家に帰る。簡単な夜食を済ませると、急ぎ風呂を浴びる。疲れ冷え切った体を湯船に浸す。体の奥から、思わず大きな溜め息が漏れた。
《ア~ァ、千香ちゃんも、ゆっくりお風呂に浸かりたいだろうな。取り敢えず、千香ちゃんが望んだ高崎に戻れて良かった。緩和ケアで家に帰れたときは、行きたい場所へ連れて行こう》
 ベッドに横になり、スーッと睡魔に襲われる。テーブルの携帯が鳴った。ハッと目を覚まし、携帯を掴み耳に当てる。愛しい声が聞こえた。
「もしもし、輝君? 眠っていたの?」
「うん、眠りかけたところだよ」
「あっ、ごめんね」
「いや、亜紀さんの声で目がパッチリ開いたよ」
「うふふ・・、面白いこと。久しぶりに聞いたわ」
「アハハ・・、そうだっけ。それでね、先ほど高崎の病院に千香ちゃんを転院させたよ」
「良かったね。千香は、どうなの?」
 輝明は神戸からの旅を、つぶさに説明する。ただ、千香が呟いた言葉は、亜紀に伝える勇気は無かった。
「少し疲れたみたいだけど、無事入院できた」
「あ~、それなら心配なさそうね。高崎なら、輝君も自由に行動できて安心でしょう」
「まぁ~ね。ところで、いつの便で来れるの?」
 亜紀は、遅れている事情を説明した。ニュー・ヨークのテロ事件からアメリカのビザ取得が困難になった。彼女は日本国籍の為に問題ないが、ブラジル国籍のマルコスには厳しく、取得日数が不明という。
「それでね、アメリカ経由でなければ、早く行けそうなの。今、エミール航空のドバイ経由を考えているわ」
「そうか。じゃあ、それにすれば・・」
「ええ、私も思っている。北島さんに相談するわ。また電話するね」
「あの~ぅ。それで・・」
「えっ、何か足らない?」
「うん、早く会いたいです」
「あっ、私もよ。毎晩、輝君の夢を見ているわ。あなたに会いたい。愛している・・」
「ボクも、愛しています」
 電話が切れ、プー、プーと空々しい通話音が耳元で鳴り続ける。旅の疲れが深い眠りに引き込んでいった。
 眠りの中に、亜紀と千香の姿が揃って彼を迎えてくれた。

×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。