忘れ水 幾星霜 第四章 Ⅵ
「北島さん、良く調べましたね」
「この一年間、ブラジル国内を飛び回っていますから、色々な料理を食べましたよ。ピラニアのフライやワニ料理も食べました」
「えっ、それは凄いですね」
横で聞いている千香が退屈そうな様子。それを見とめた亜紀が、声を掛ける。
「千香、フルーツなら食べられる?」
「ん・・、そうね。食べてみようかな」
「じゃあ、待ってね。直ぐ持って来るから」
亜紀はバイキング形式のデザート・テーブルへ行き、千香が食べられそうな何種類かのフルーツを小皿に盛る。
「はい、パパイヤとマンゴーは熟れて甘いわよ。スイカやメロンも美味しいと思う」
「わぁ~、色鮮やかね~ぇ。何から食べればいいのか、迷ってしまう。あれ、亜紀はケーキなの? 狡いな、美味しそうなケーキね」
「はい、一口ならあげる」
千香は、大きな口を開けて食べる。
「まあ、甘い。ブラジルのケーキは甘過ぎるわ」
「ブラジルはサトウキビから採れる砂糖が豊富なの。だから、とっても甘いのよ」
「私は、パパイヤにするわ」
輝明は、北島と話しながらふたりの会話を気にしていた。
《千香ちゃんの食事を心配したが、亜紀さんがフルーツを勧めてくれて良かった》
およそ二時間後、散会を惜しむが明朝のサントス行きが朝早いので、お開きにしてホテルへ戻った。
亜紀はマルコスと一緒に家に帰った。マルコスのお喋りは、家に帰っても続く。
「マルコス、いい加減にお喋りは止めて、今晩は早く寝るのよ。分かった?」
「うん、だけど慣れない家では眠れそうにないよ」
「ダメ! 寝るの!」
「一つだけ、教えて。いつ日本に帰るの?」
彼のお喋りは、不安から話し続けていると感じた亜紀。
「マルコス、心配しなくてもいいのよ。私は日本へ行かない。このままよ」
「本当に! ブラジルに残るの、このまま?」
「ええ、安心しなさい。だから、シャワーを浴びて早く寝なさいね」
理解し安心した彼は、シャワーを浴びるとベッド代わりの居間のソファで寝た。
翌日七時に、ホテルに着いた亜紀とマルコス。輝明と千香がレストランで朝食を食べているところであった。亜紀とマルコスも誘われ、簡単なパンとカフェを一緒にする。