「さて、洸輝君の率直な意見を聞こう。どうかな?」 俺の心は彷徨っている。家族の絆が意図する意味を、漠然と理解するも不自然さを感じた。 《家族なんて、なんだ。絆の結び目が解ければ、簡単にバラバラだ。二十数年間、誰も手を差し伸べない》 「ん? 俺には、自分の存在自体が理解できないんだ。何を目的に生まれ、生きて来たのか。俺には、何一つ取り柄が無い。生活を維持して行く根拠も無い。折角家族を手に入れても…
突然に箸を置いた真美が、奥さんの顔を直視する。 「私たちを子供にして・・、お願い」 真美の言葉に、三人の箸が止まる。 「さっき、料理の手伝いをしながら、これが親子なんだろうなぁ、と思ったわ。楽しく幸せな雰囲気に憧れを感じたの」 俺の脳は、真美の言葉に揺さぶられた。 「ええ、私は構わない。あなた、どうする?」 「どうするって、君ら三人が約束したことだよ。友達以上の繋がりを・・。それを見届けら…
俺にとって、家族の絆はゼロだ。求めることもできない。親の顔や性格も知らない。もし、知る機会があっても、俺は断るつもりだ。今更知って、なんの意味も無い。ただ、混迷するだけで、なんの得にもならない。 「先生、家族の絆が運命であれば、絆の無い俺の運命は、どの様に考えればいいのですか?」 「いや、良く考えてご覧、君には大切な施設の仲間の絆があるよ」 「施設の仲間の絆ですか?」 「そうだよ。施設の仲間が…
「私と洸輝の運命は、どうなの? 約束があったから、ママが夢に現れたのでは・・」 真美は夢に現れた母親が、あの講義に参加を勧めたと思っている。 《俺は、自分の過去を知り、自暴自棄に陥っている。このまま生きても、碌な人生が有る訳ない。道に迷い、左右どちらを選んでも結果は同じだ。悪いに決まっているよ》 「洸輝、その考えは良くないわ」 真美は俺の心を読んでいた。彼女が何かを考えているときは、気を付け…
「ふふ・・、あなたたちのお母さんは、私の友達なの。高校の同級生で、三年間とても仲良しだったわ」 笑顔だった表情が、愁いに変わり俺たちを見詰める。 「卒業後、しばらくの間は親しく連絡を取っていたけど・・。徐々に其々の道を歩み、連絡が取れなくなったの。風の便りで、元気に過ごしていることは知っていたわ。でも・・」 奥さんの言葉がとぎれ、エプロンで顔を覆った。肩が小刻みに震えている。 「続きは、私が…
朝食を済ませ、早めに家を出た。今日の真美の運転は、昨日よりリッラクスしている。俺は落ち着いて座ることができた。講師の家まで、他愛ない会話をする。箕郷から下り、高崎市街地に戻る。国道17号に出て烏川沿いを走り、和田橋を渡って護国神社の近くにやって来た。 説明通りに左折する。直ぐに探すことができた。一際目立つ『運命を考える会』の看板が、家の前に建てられていたからである。 「あっ、これだ、この家だ…
目覚めると、真美は既に起きていた。キッチンからカタコトと音が聞こえる。顔を覗かせると、直ぐに気付き笑顔で挨拶してきた。 「おはよう、朝食の支度ができたから、早く顔を洗ってね」 「やあ、おはよう・・」 「着替えを、ベッドの横に用意してあるわ」 「えっ、着替え?」 俺は、急いで顔を洗い、寝室へ行く。ベッドの脇に新しいネックのシャツとセーターが置かれていた。俺は信じられない気持ちで、手に取ってみる…
確かに真美の意見は、正しいと思う。余計な詮索は必要ない。 「そうだね。俺は愛に飢えていた時期もあった。でも、大人になるにつれ、愛に不信感を抱き、求めないことにした。だって、いくら求めても、結果的に虚しくなるだけだ」 「私も虚しく悲しい時間を過ごしたわ。誰も傍に居なくて、幸せを感じなかった。とても寂しかった・・」 彼女を養育した人は約束を果たすだけで、家族の愛を教えなかった。だから、真美は愛の…
秋の夜は冷える。真美に上掛け布団を掛け、俺も横になった。真美が甘えるように寄り添う。芳しい香りが俺の肺を満たす。 「明日、先生に何を聞くつもりだい?」 「うん、夢のこと・・。できれば、夢に現れる人が誰なのか、知りたいの」 間近で話す真美の息が、俺の顔に温かく触れる。果たして、俺の息は大丈夫だろうか。心配になった。俺は横を向いて、手のひらに息を吹きかけ確かめる。 「洸輝、何してるの?」 「うん…
俺は彼女の手を取ると、諭すように話し始める。 「真美、いいかな?」 「な~にぃ? そんな怖い顔をして」 「真面目な話だから、最後まで聞いてね」 「・・・」 「セミナーから始まったふたりの出会い。あっという間に、親密な関係になってしまったね。事実、ゆっくりと考える時間さえ無く、戸惑いを感じ先々のことを心配している。本当に運命の仲であれば、しっかり話し合うべきだ。結婚と言う絆は、単純な結び付きでは…