ウイルソン金井

創作小説。ロマンス、怪奇、ユーモアなど。多岐チャレンジ中。

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第四章 Ⅳ

「それで、亜紀は一緒に日本へ帰るのね」
 亜紀は千香をソファに座らせ、自身も横に座り千香の手を握る。
「千香ね、私は日本に帰らない」
「どうして? それじゃ、なぜ輝坊ちゃんと結婚したの? 意味が分からないわ」
 輝明も、千香の前に腰掛け説明しようとした。
「そ、そ・・」
「待って! 輝君。これは私の考えなの。だから、私が千香に話すわ」
「うん、分かった」
 千香は呆然とふたりの顔を順次に見比べる。
「千香、ブラジル生活に慣れてしまった私には、知らない国の日本では戸惑うばかり、楽しく過ごすなんて不可能に近い話よ。だけど、輝君が提案した結婚は・・」
 項垂れて言葉が続かない亜紀に替わり、輝明が補足する。
「結婚は確かにしたよ。神様の前でね。ほら、指輪も・・」
 左手の薬指に光る指輪。千香はふたりの指輪を凝視し、亜紀の指輪に触れた。
「輝坊ちゃん、いつの間に用意したの。驚いたわ」
「だけど、一緒には住めない。亜紀さんはブラジル。オレは千香ちゃんと暮らす。会えるはずのない人に会え、結婚まで叶うことができた。それで十分さ。そう思わないかい?」
「ふたりがそれで納得したのなら、私は構わない」
「ええ、それで十分に満足よ。千香、私はとても幸せだわ」
「そう、分かったわ。改めて、おめでとう。これで私の心配事は無くなった」
「勿論さ、後は千香ちゃんの体を大切にするだけだ。明日、千香ちゃんが願っていた南半球の大西洋を見に行こう」
「本当? わぁ~、やっぱり輝坊ちゃん、大好き!」
 千香は目を大きく見開き、輝明の顔を見て叫んだ。
「どこへ行くの? 思い返せば、私もブラジルに来てから、一度も大西洋をゆっくり見ていないわ」
「北島さんに頼んであるから、どこへ行くのか分からない。海岸は暑いから、朝早くに出発する予定だ。ただ、千香ちゃんの状態で早く戻るかも・・。いいよね、千香ちゃん」
「うん、了解よ」
「マルコスには、夕食の時に知らせる。今日は、私の家に泊まらせるわ」
 夕食は、シュラスコという串刺しの焼肉料理。マルコスが途中から参加できるよう大学に近い、モルンビィー高級住宅街の一角にある有名な店を選んだ。
 大きな串刺しの肉が次から次へと、店員によって運ばれてくる。この珍しい光景に千香は驚くばかり、肉の塊を見るたびに輝明へ合図する。
「ほら、美味しそうな肉が来たわよ。たくさん食べなさい」
 亜紀は聞きながら笑いを堪えていた。
「もう、千香は母親みたいね」

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