ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第三章 ⅩⅤ 

「待って! この話は・・、今は、答えられないわ」
「承知の上です。亜紀さんに負担を掛けるつもりはありません。良く考えてからで、結構です。これは、飽くまで・・、ボクの願望ですから・・」
「いいえ、輝坊ちゃんだけでなく、私の願いでもあるわ」
 千香の訴える眼差しは、亜紀の心組みを撃破する。
「はぁ~ぁ・・」
 亜紀は、その場に崩れ落ちる。
《ごめんなさい。こんなに苦しむ亜紀さんの姿を、想像していなかった。性急な話題と分かっていたが、思わぬ形で口走ってしまった。でも、なんとなく気持ちが理解できた》
 テーブルの内線電話が鳴る。輝明が出ると、北島から夕食の迎えの知らせであった。
「亜紀さん、ごめんなさい。しばらく時間を置いてからにしましょう」
「ええ、・・」
 気を取り直した亜紀は、涙を拭いながら頷いた。
 夕食は、千香の足でも無理なく行ける、近くのマグロの炭焼き料理店を選ぶ。
「マルシア、マグロは刺身しか食べたことがないよ。楽しみだね」
「私もよ、マルコス。サン・パウロに住んでいても縁がなかった。千香、これなら柔らかくて食べられそうね。どう?」
「平気よ、なんだって食べられるもの」
「無理しなくてもいいよ。残ったらオレが食べるから」
 注文した料理がテーブルの上に並ぶ。みそ焼きの香りが充満し、食欲を誘った。
 若いマルコスが、勢いよく食べ始める。
「輝坊ちゃん、この子の食べ方は凄いわ。一皿では可哀そうよ」
「そのようだね、いやぁ~、参ったね。あっという間に終わりそうだ。若いって、羨ましいやぁ。北島さんも、もう一皿追加ですね」
「はい、とても美味しいですから、追加しますよ。特に、このセルベージャ(ビール)と合いますね。ハハハ・・、金井さんも一杯いかがですか」
 輝明は酒が苦手なので遠慮するが、亜紀が一杯だけ飲み干した。
「明日は、どうするの?」
「うん、亜紀さんの勤め先を訪問する予定だ」
「あの・・、憩い・・、なんだっけ、亜紀!」
「憩いの園よ。忘れないで、千香」
「ごめん、ごめん、年寄りだから、直ぐに忘れてしまう」
 亜紀は、千香の言葉に呆れた顔をする。
「なに言ってんの、私とあなたは同い年よ。年寄りだなんて、ねえ、マルコス」
「そうですよ。若いです。まだまだ、恋ができますから」
「あら、まあ、マルコスさんって紳士ね?」
「いいえ、これを言わないとマルシアに叱られます」
「えっ? マルコス、どうして私が?」

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