ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第三章 ⅩⅣ

「マルコス、ふたりを明日の午前中に連れて行くから、佐和さんに連絡してね。頼んだわよ。チャオ!」
「うん、分かった。チャオ、マルシア!」
「あ、そうだ。マルコスさん、夕食を一緒にするから、後でホテルに来てね」
 輝明がマルコスを誘う。マルコスは大喜び。
「やった~、行く、行きます。それに、マルコスさんじゃなくて、マルコスでいいよ」
「O・K! チャオ、マルコス!」
 亜紀と輝明は自然に手を握り合わせ、ホテルへ引き返す。
 ホテルの部屋に戻ると、千香が目を覚まして待っていた。
「千香、ぐっすり眠れたの?」
「うん、疲れが取れたわ。それで、ふたりの話はどうなの?」
「ええ、なんとか・・」
「輝坊ちゃん、少しは満足できた?」
《やっぱり、千香ちゃんはオレたちのことしか、考えていない》
「そうだね、満足しているよ」
《そう、良かった、良かったわ》
「千香!」
 亜紀が、先ほどから話したくて、タイミングを計っていた。
「な、何? どうしたのよ亜紀? 大きな声を出して」
「うん、実はね、ひょんなことから、輝君が二度もブラジルに来ていたことが露見したのよ。面白かったわ」
《あ~ぁ、ばらされちゃった。千香ちゃんから怒られるなぁ》
 亜紀は、チラッと輝明の顔を見てから、文化センターの出来事を説明する。
「うふふふ・・、輝坊ちゃんは小さい頃から嘘が下手なの。輝坊ちゃん! 隠し事は絶対にダメよ」
「・・・」
「でもね、県人会の人に誤魔化すことができず、気恥ずかしそうに挨拶していたわ。そしてね、私にばれたときの顔を、千香に見せたかったわ。胸がキュンとして、可愛かった。ふふふ・・」
「あらあら、それはようございましたこと」
 仏頂面で手を仰ぐ輝明を、横目で見て大笑いするふたり。
「むふふ・・。久しぶりね、亜紀と一緒に笑うのは・・。あははは・・」
「うふふ・・、ははは・・、そうね。あの頃はなんでも笑えたわ。ふふふ・・。歳を重ねるほど笑えなくなる。ブラジルに来て、辛く悲しいことばかり」
「日本に帰って、一緒に楽しく暮らそうか・・」
 ふたりの笑いを一身に受けていた輝明が、唐突に、思い詰める声を出した。亜紀と千香は驚き、彼の顔を窺う。だが、千香は即座に理解して大きく頷く。
「亜紀! 私も輝坊ちゃんと同じ意見よ」
 輝明の言葉に、追い打ちをかける千香であった。

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