ウイルソン金井

創作小説。ロマンス、怪奇、ユーモアなど。多岐チャレンジ中。

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第三章 ⅩⅡ

 ふたりは、それぞれに千香のことを考え、無口になる。
《千香ちゃんのことは心配だ。でも、彼女の心にはオレと亜紀さんのことで一杯なんだよなぁ。話題を変えよう》
「それでね。当初の考えでは、南マット・グロッソへ行く予定で・・」
 亜紀の顔色が一瞬に青ざめ、懸命に反対した。
「それはだめ! 私のすべてを失くした場所よ。それだけは、やめて!」
 輝明は、彼女の必死な形相に、落ち着いて話し掛ける。
「分かっています。千香ちゃんは、あなたが嫌がると知っていたから、行きません。北島さんが、亜紀さんの勤め先憩いの園を勧めてくれました。明日にでも、伺いたいと思っています。どうでしょうか? 千香ちゃんが一番喜ぶと思う」
 亜紀の強張りが薄れ、僅かに笑みを見せた。輝明は安堵する。
「ふぅ~、驚いた。それなら、いいわ。事務長の佐和さんが、輝君たちに会いたがっているもの。なんなら、今から事務所へ行ってみる? 直ぐ近くだから」
「そうですね。夕刻まで時間もあるし、行きましょうか?」
 輝明は出掛ける前にフロントに寄って、千香宛ての手紙を書いて預けた。
「これなら、千香ちゃんから問い合わせがあったら、読んで安心するものね」
「そうね、じゃあ出かけましょう」
 ホテルを出ると日本文化センターに向かう。
《やはり、変わっていない。輝君は必ず車道側を歩いてくれる。昔のままね。よし、それなら昔と違うのは、これよ》
 亜紀は、大胆にも輝明の腕に、自分の腕を絡めた。彼は動揺することなく、自然体で受け止める。
「ここよ!」
 初めての恋人気分は、数分で終わりを遂げる。センターの入り口で、彼の腕からそっと腕を抜いた亜紀であったが、決して恥ずかしい行為ではないと自分に言い聞かせた。
《驚きだな。亜紀さんの温もりが、まだ腕に残っている》
「ここですか・・」
 建物全体を見上げ、何かを確かめる輝明の素振りに、亜紀は反応する。
「どうしたの?」
 彼は慌てて、とぼける。亜紀は千香の話を思い出した。
《そうだ。私を探しにブラジルへ来てるのよね。必ず、白状させてみせるわ》
「もしかして、ここに来たことがあるの?」
「と、とんでもない。初めてです」
 彼は顔を赤らめ、さっさと表階段を上がり始めた。
《片意地な性格は、輝君らしい。なんとか、白状させたいな。いい案がないかしら》
 そのとき、亜紀の考えよりも、驚く結末が輝明に待っていた。
「あれ、お久しぶりですねぇ。確か、高崎出身の金井さん・・、ですよね?」
 恰幅の良い白髪の男性が、輝明に声を掛けたからである。

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