ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第三章 ⅩⅠ

「確かに・・、あの頃のボクは、あなたに会える喜びと同時に不安を感じていました。初めての恋心に、疑心暗鬼に押しつぶされ苦悩の毎日でした。ただ、あなたの本心を理解できたのは、水沢山の忘れ水を唇に触れたことや船上の別れ際の姿。それに、最後のデートで触れたあなたの唇と、絵葉書が亜紀さんの真意であると気付いた瞬間でした。遅すぎましたけど・・」
 亜紀は、恥ずかしく顔を赤らめ、俯いて彼の話を聞いていた。
「何か、飲みませんか? ベラベラと話したら喉が渇きました。アハハハ・・」
「ふふ・・、そうね、私も恥ずかしくて喉がカラカラよ。うふふ・・」
 彼の屈託のない笑いが、彼女の笑いを誘う。輝明の顔が和み、ゆったりとした座り方に変える。
「ボクは炭酸系のガラナを頼みますが、亜紀さんは?」
「私もそれでいいわ」
 輝明は、ロビーのウエートレスに注文する。
「でもね、いつ交際を断られるか、常に怯えていました。あなたに振られたら、恐ろしい状況を考えていた」
「恐ろしい状況って、どんなこと?」
「例えば、フェリー・ランドの猿山に飛び込み、ボス猿に顔を引っ掻かれて死んじゃう」
 亜紀は予想外の例えに目を見張らせ、続いて笑い出した。
「うっふふふ・・、ははは・・。止めてよ。ふふふ・・」
「もしかしたら、メス猿に惚れられ、猿山に住み込んじゃうかも。アッハハハ・・」
「て、輝君。もう、冗談はやめてよ。ふふふ・・。フェリー・ランドは、まだ在るの?」
「いや、もう閉園です。それに回転式レストランも無くなった」
「あら、残念ね」
 そこへ、ウエートレスが冷えたガラナとグラスをテーブルの上に置いた。彼が、サインとチップを渡す。亜紀がグラスにガラナを注ぐ。シュワ―ッと泡が飛び散る。
「じゃあ、再会を祝して乾杯!」
「サウーヂ(乾杯)!」
 ふたりはグラスを合わせた。
「ところで、今後の予定は?」
「うん、一週間ほど考えていたけど、千香ちゃんの病状が心配だ。早まるかも知れないが、彼女は反対すると思う」
「千香から余命のことを、直接に聞いたわ。どう・・、慰めればよいのか、言葉が・・見つからない」
《あ~、千香! 大好きな千香。どうして、千香なの?》
 心が沈み、涙声に変わる亜紀だった。
《ありがとう、亜紀さん。オレだって苦しいよ。だけど、慰めの言葉は、千香ちゃんには似合わないんだ》
「亜紀さん、あまり深く考えないで欲しい。思いの外、千香ちゃんは死に対して達観している様子だから」
「でも、・・・」

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