ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第三章 Ⅹ

「待って、その話だけど、突然に言われても・・。どう考えて、どう答えて良いのか分からない」
「ええ、そうね。簡単な問題ではないと思うわ。でもね、亜紀! 輝坊ちゃんから誘われたら、曖昧な答えはしないでね。あなたの偽りのない本心で答えて欲しいの。お願いよ」
 真剣な眼差しで亜紀を見る千香。亜紀は千香の深淵な言葉を理解した。千香が疲れた様子を見せたので、ベッドに移し横にさせる。
 亜紀はベッドの横に腰掛け、千香が眠りにつくまで手を握る。しばらくすると、千香の静かな寝息が聞こえ、亜紀はベッドから離れ部屋を出た。
 亜紀がロビーに行くと、ガラス越しに外を眺めている輝明の後ろ姿が見えた。横に並び目線を外へ向けたまま、声を掛ける。
「千香は、少し休むと言って寝たわ」
「お世話になりました。どうぞ、座りませんか?」
 窓際に近い席を勧める。
「ありがとう。それで、北島さんは帰られたのですか?」
「ええ、一度事務所に戻り、用事を済ませてから夕食の時間に来られるそうです。マルコスも事務所へ行きましたよ」
 テーブルを挟んで座るふたり。遠い記憶の中に溶け込んだ輝明と亜紀。彼女を見詰める彼に対し、テーブルに目を置き俯いたままの亜紀。
《困ったわ。そんなに見詰めないで・・。》
「亜紀さん、不思議な気持ちですね。今、三十年の歳月が嘘のように消えた」
 輝明が穏やかな声で話し掛けたので、亜紀はホッと心が平静になり会話ができた。
「そうね、信じられないことが起きている。輝君、覚えている? あなたのラブ・レターに書いてあることよ」
「えっ、ラブ・レター?」
「そうよ。出会いは偶然という奇跡が引き起こす。偶然を必然に変えることが、輝君の運命であると書いてあったわ」
《そう、あれはオレの愚作だ。素直に謝ろう》
「あれは、無我夢中で書いた幼稚な考えでした。後悔している。それに、羞恥心も無く亜紀さんの職場へ押しかけたこと、申し訳ないです」
 輝明は、座ったまま頭を下げた。
「なぜ、なぜ謝るの? 謝る必要はないわ。嬉しかったもの・・。自分の気持ちを素直に表現できなかったこと、私の方が悔んでいる」
 体を微動だせず目線を亜紀に向け、彼女の話を聞き続ける輝明であった。
「そして、日本を離れる最後の日まで、あなたの気持ちを踏みにじり不快にさせてしまった。特に、親友の千香に手紙を託すなんて、愚かな考えね。渡すとき、彼女は深く心を痛め悲しんだ。だから、こうして再会できるなんて、夢にも思えなかったわ。それに、それに、感じたことのない温もりに包まれるなんて・・」
 亜紀の言葉が途切れ、沈黙が続く。しばらくして、輝明の言葉で沈黙の結び目が解かれた。

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