ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第二章 Ⅶ

「ご主人と一緒に来られるのね?」
「橋本教授は既に亡くなっており、奥様のいとこの方と来られるようです。奥様はご病気で、恐らく一人旅が困難だから同伴をお願いしたのでしょう」
《えっ、嘘でしょう。輝君が一緒なの?》
「は~ぁ、そうですか・・」
 亜紀のショックを隠せない様子に、佐和が彼女の背中を手のひらで優しく摩る。亜紀は佐和の心遣いに軽く頷く。
「ご心配なく、後で説明しますから・・」
 佐和は理解して、背中の手を引いた。
「北島さん、その方のお名前は・・?」
「確か・・、金井さんです。ご存知ですか?」
「え、はい。存じて・・いま・・す」
 亜紀は弱々しく答えたが、内心では胸が高鳴り躍動していた。
《やはり、輝君なのね。どれほど輝君の名前を呼び、夢を見続けたか。本当に会えるのね》
「では、お会い頂けますね?」
「はい・・」
 北島の顔がほころび、責任を果たせた喜びの表情に変わった。その場に漂っていた緊張の空気が和らぎ、カフェを飲みながら雑談に移る。日系社会の医療や福祉関係の会話になると、北島が憩いの園を見学したいと希望した。
 佐和は予定があるので、亜紀が代わりに案内する。
 中庭の通路に来たとき、周囲に人のいないことを確認した北島が、亜紀に質問を投げかけた。
「横山さん! 奥様のブラジル訪問は、何か複雑な事情がお有りのようですね」
 亜紀の神経がぴんと引き締まる。
「なぜ、そう思われたのですか? 何も有りませんよ」
「それに、あなたが動揺された方は・・」
 亜紀の心が大きく揺れる。
「北島さん、あなたが何を考え、どう思われたか知りませんが、特に複雑な事情なんて有りませんわ。残念ですが・・」
 北島は、応接室で見せた彼女の僅かな変化を見逃さなかった。
「そうでしょうか? 奥様は必死の覚悟で、遠いブラジルまで来られる。大学の同僚に問い合わせたら、長旅が耐えられるか心配らしいです」
「えっ? 千香は、それほど具合が悪いの?」
「ええ、容体が心配です」
 亜紀は北島の話に項垂れる。顔を上げ、そこから見えるアジサイを眺めた。
《アジサイは多様な色に変化する。人の心も時と共に変化する。千香との友情は変わらないが、輝君の心は変わっているはずよ》
「横山さんは、あのアジサイが好きですか?」
 北島が、話題を変えてくれたのでホッとする。

×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。