ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第一章 Ⅶ

「ふふ・・、宛名不在で戻ってきた。そうでしょう?」
「えっ、どうして分かったのさ?」
 輝明の驚く様子に、千香はほくそ笑み喜ぶ。
「だって、久しぶりに会ったあの日に、ラ・メーゾンでケーキを食べながら卒業後の話をしたの。そのときに、亜紀が末広町へ越したことを教えてくれた。それで・・、輝坊ちゃんは誰から?」
 輝明が答えようとするとき、ガクンと列車が揺れて速度が緩やかになり、熊谷駅のプラット・ホームが視界に入ってきた。千香は、話そうとした彼の顔を覗き見て、執拗に返事を待つ。熊谷駅に列車が停まると乗客の入れ替わりが多く、輝明は周りの様子を眺め話すのをためらっていた。
 ジリジリ・・、人の声が消されるほどの、けたたましいベルの音が発車を知らせた。幸いにも周囲に人が座らなかったので、輝明は落ち着いて話せると安心した。列車が動きだし、次は大宮駅である。
「オレはね、住所を調べるのが面倒になって、亜紀さんが勤めるN証券に電話を掛けちゃった。バカだよね、オレは。もちろん、昼休みに・・だよ。嫌われるのは承知の上でね。受話器を持つ手が汗でびっしょりさ。ところが、都合でお休みと言われ、変な話だけど・・、ホッとした」
「うん、その話は亜紀から聞いたわ。翌日に出社したら、輝坊ちゃんの電話がメモされ驚いて読んだそうよ。でもさ、輝坊ちゃんの凄いところは、帰宅する亜紀を待って手紙を渡したこと。それも、会社の前で受け取って下さいとか言ってね。行動力の輝坊ちゃんと、それをさせた亜紀に私は嫉妬を覚えたわ。あれは、ラブ・レターでしょう? ふふ・・」
《そう、オレは、なぜにあんな行動ができたんだろうか。冷静に考えればできない。恋なのか? このエネルギーには自分でも驚いている。無我夢中で何を言ったのか記憶にない。ただ、顔を赤く染め手紙を受け取ってくれた。もし、ダメだったら高崎城址の堀に飛び込んでいたかも・・》
「アッ、ハハ・・。そんなことはないよ。ただのお礼の手紙を書いただけさ」
《本当に嘘が下手ね。輝坊ちゃんは・・》
 千香はムッとした顔で、輝明の顔に近づく。
「ウソ、おっしゃい!」
 輝明は、千香の勢いに押され一瞬たじろぐ。
「運命がどうの、偶然が必然だとか書いたでしょう?」
 今度は、輝明が前にのめり反撃する。
「な、なんで知っているのさ!」
「それに、私のいとこだから安心です、とか言ったそうじゃない。もう、狡いんだから。何が安心なの?」
《わぉ~、千香ちゃんには、隠し事は無理だな。恐れ入りました》
「なんだ、亜紀さんから聞いているのかぁ。でもさ、どうしても受け取ってもらいたいと必死だったから。ごめんなさい、千香ちゃん」
「ううん、もういいわよ。輝坊ちゃんだから許してあげる。亜紀は、それ以上のことを話さなかった。でも、嬉しそうに話したわ」
「本当に?」
「ええ、本当よ。どんな内容なの教えて」

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