偽りの恋 ⅢⅩⅡ
計画は誰かの意見で決めた訳でなく、食堂でなんとなく喋った話が現実化した。大山と木村が実行委員らしい。
「大山さん、三浦半島の件だけど、俺は知らないよ」
「あれ、部屋の机の上に、メモを置いたけどなぁ」
探したけど、結局見つからなかった。でも、食堂の掲示板で確認する。
その後、佐藤さんとは夕食後の時間に、外で待ち合わせる。特に切々な思いで、デートをすることでもない。他愛のない話題を話すだけだ。
ある晩、近くの畦道を歩いているとき、佐藤さんにキスを求められた。
「金ちゃん、キスして・・」
俺は応じた。暗闇の中、決して短くない時間だった。
「・・・」
人の気配を感じ、二人は離れる。佐藤さんの寮まで見送り、俺は虚しい気持ちで自分の寮に戻った。
「金ちゃん、なんだか迷っているみたい。心が空っぽな気がする」
別れ際に、佐藤さんが俺に言った言葉。確かに、俺の心は空っぽだ。あの人や長谷川さんの面影が浮かぶ。それなのに、佐藤さんと逢瀬を繰り返している。
「あっ、良い時に戻って来た。ひとり足らなかったんだ」
木村が、麻雀を誘う。
「悪いけど、今はやる気分じゃないから、他の人を誘ってよ」
俺はそのまま部屋へ行く。机に向かっても、本を開く気になれない。ベッドに横たわる。
「どないしたん? 彼女に振られて・・」
坂本が部屋を覗いた。
「せやねん、だからほっといて!」
「金ちゃん、めちゃ怖いわ。ほな、はよ寝や」
「でけへんわ。あ~、おもろない」
ベッドから起き上がり、食堂へ戻る。
「木村さん、仲間に入るよ」
「よっしゃ、カモがネギ背負ってきたぞ」
だが、今日の俺は強かった。強気でやるから、負け知らず。
「いや、今日の金ちゃんはまともじゃない、参ったわ」
木村だけでなく、大山も降参する。