偽りの恋 ⅢⅩ
情けない自分を恨めしく思う。心の奥に封印できない弱さを嘆く。ベッドから起き上がり、洗面室で顔をゴシゴシと洗った。幾分気が晴れ、再び食堂へ顔を出す。
「金ちゃん、ちょうどいいところに来た。ちょっと変わってくれ」
木村の代わりに、俺が麻雀することになった。別に嫌いじゃなかったので、卓に座る。
「大丈夫か? あまり元気が無いけど・・」
大山が気遣う。
「いや、平気です。久々に、別れた人と会ったので、少し落ち込んだだけです」
「そうか、それは残念だったね」
俺は手の内を考えず、要らない牌を捨てる。
「それ、あたり~! ハイ、満貫ね」
対面の須山が喜んだ。
「えっ、ウソ? あ~、俺何やってんだ」
その後も、運が悪かった。この晩は、大負けに終わる。
「ああ、今日は大損だ。疲れたから、もう寝るよ」
途中から戻って来た木村に、バトンタッチした。
「すまんな、金ちゃん!」
「別に・・、負けたのは、自分の所為ですから・・」
部屋に戻り、倒れ込むようにベッドへ寝転がった。背伸びすると気持ちが良く、嫌な気分が消えるようだ。そのまま、朝まで寝ることができた。
翌日の夕方、佐藤さんが訪ねてきた。門の前に手ごろな、段差があったので並んで座る。
「昨日は、どうだった?」
「え、何が?」
「デートよ。楽しかった?」
俺の顔を盗み見る様に覗く。
「だから、デートじゃないよ」
「嘘言わないで。私、知っているもの」
「うっ、ゴホン・・」
俺は、軽く咳ばらいをした。
「幸子ちゃんから聞いたわ」
「じゃ、坂本さんが喋ったのか?」
「ええ、そうよ。元気なく帰って来たそうね」
彼女は、どこまで聞いているのか、考えてしまった。