ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅡⅩⅨ 

「今更だけど、直接に言ってもらいたかった。自分の口で答えるつもりだったのに・・」
「・・・」
「私は、両親が反対しても、あなたと結婚する覚悟だった」
「そんな・・」
「ええ、本当よ。でも、もういいの」
 あの人は悲しい目で俺を見る。俺の心は、挫けそうだ。
「そうか・・、ごめん」
 俺は、ただ謝るしかなかった。
「お元気でね。さようなら・・」
 あの人が席を立つ。
「あっ!・・・」
 一瞬目が合ったが、あの人は立ち去った。日比谷公園内の木々を、風が揺らす。あの人の姿を、見えなくなるまで追い続ける。
 しばらくして、虚しい心を抱きながら公園を後にした。寮に帰る間、あの人の面影が消えることはなかった。俺は、あの人を一生忘れないと確信する。
 寮に戻ると、全員が食堂に集まっていた。
「金ちゃん! 遅かったやないか。しょぼくれて、どないしたんや?」
 ビールで顔を赤くした坂本が、大きな声を掛けた。
「なんでも、あれへんよ」
「いや、へたれている顔や」
「かまんといて、坂本さん・・」
「しゃあない、もう、金ちゃんの顔を見いひんわ」
「めちゃ、おおきに」
 佐本が諦め、ビールを飲み続ける。 二人の会話に、食堂中が大笑い。俺は、買ってきたサンドイッチを食べ始めた。
 その晩は、ほとんどが食堂に残り、遅くまで騒いだ。
 俺は途中で部屋に戻り、ベッドに横たわってあの人の後ろ姿を思い出していた。

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