偽りの恋 ⅡⅩⅧ
「君と結婚して、幸せな人生を共に過ごしたいと願った。それは誰でも求めることだし、初めから離婚なんて考える人はいない。そうだろう?」
「ええ、思うわ」
「それと同じに、生きる意味を考えた。産まれ、死ぬ、これは全ての人に当てはまる。だから、生きているうちに何をやりたいか。それが夢だと思う」
「・・・」
「夢を最初から諦める人いるだろうか? 幸せの価値観で、諦める人もいるはずだ」
あの人が、なにか閃いたようだ。
「なんとなく、あなたの幸せの価値観が分かった気がする。幸せな結婚より、夢を求める訳ね」
身勝手な俺の、筋の通らない理屈と思われなかった。ホッとした。
「うん、実はそうなんだ。だから、君と結婚しても、後で夢を求めたら悲しい状況になる。離婚なんてできないだろう。もし、子供がいたら、尚更だ」
「ええ、もちろんよ。私なら決して離婚させないわ」
俺は、今がタイミングだと思い。考えていることを打ち明ける。
「なぜ君に言わず、ご両親に結婚の承諾を申し込んだか? 俺の現在の境遇では、絶対に許されないと理解していた。だから、敢えて申し込んだ」
「えっ、もちろんよ。私も思うもの。私は、直ぐに結婚するつもりは、なかった。できる状況まで待つつもりだったわ」
複雑な気持ちで、あの人の言葉を聞いた。
「それは嬉しいけど、ご両親、いや特にお父さんが許さない。先日にお会いしたとき、強い口調ではっきり断られた。あれは、大事な一人娘を不幸にさせたくない、父親の愛情だよ」
あの人は、抱きしめたくなるほど、辛そうに肩を落とし俯く。
「ええ、それは感じている。母も心配していたわ」
「だから、君を諦める最大の力が必要だった。父親の愛情が、俺を妨げる力だ。それに、君の言葉で断られるより、良いと思ったからだ」
俺は本当にひどい男だと思う。でも、これはあの人の幸せを考えてのことだ。