偽りの恋 ⅡⅩⅢ
俺は何を話すか、前もって考えていた。彼女の名前は長谷川。
「長谷川さんが好きなのは、旅行の話だよね」
「ええ、この状況では、どこへも行けないもの」
「じゃ、どこへ行きたい? 国内、外国のどっちがいいかな?」
「ん~、外国かな?」
やはり、思った通りだ。俺は南米の様子を話すことにした。ただ、俺も行ったことが無い。
「南米のインカ帝国を知っているよね。実は、行ったことがないけど、興味があるんだ」
長谷川さんは、目を輝かして頷いた。
「面白そうね。聞きたいわ」
アンデスに伝わる不思議な物語、天空の都市マチュピチュの恋を話す。
「若き王子が、夜空に輝く星座を眺めていると、夥しい流れ星に出会う」
物語の構成を考えるが、所々ちぐはぐな場面となる。
「いや、ごめん。変なことになったら、聞き流してね」
「平気よ。全然問題ないわ」
俺は必死に組み立て、物語らしく話を作った。
「こうして、若き王子は美しい娘と結ばれました」
「うふふ・・、どうにか纏まったようね。途中、聞いてる方が心配しちゃった」
「ふ~ぅ、今回は失敗だ」
「ううん、そうでもないわ。アンデスの山々が想像できたから、楽しく聞けたもの」
「それなら良かった・・」
看護師が、長谷川さんを迎えに来た。彼女の表情が暗くなる。俺は心配した。
翌日の午後、いつものように談話室へ行く。しかし、待っても来ない。俺は仕方なく病室に戻った。その日、消灯時間になっても、寝付くことができなかった。
次の日も会えなかった。
四日後、長谷川さんの看護師が、俺を呼びに来た。
「どうしたんですか?」
何も語らない看護師に、俺は尋ねる。
「ええ、行けば分かるから・・」
エレベーターに乗り、三階から五階の病棟へ向かう。
「ここだけの話よ。いいわね」
「はい、なんでしょうか?」