偽りの恋 ⅩⅦ
自分では長く潜るつもりだったが、直ぐに息を切らして顔を出した。
「何やってんだ、金ちゃんは・・」
川島が立っていた。
「いやぁ~、川島さん。気持ちを吹っ切るために、潜ったけど・・」
「何を、吹っ切るつもりなんだ?」
川島が湯船の中に入って来た。彼は、俺と同じ群馬県出身。
「いや、そんなに深刻な問題じゃ、ないですけどね」
「そうか、誰でも悩みがあるからな」
二人の会話は、風呂場の中にくぐもる。
「川島さんは、悩んでいるようには見えませんね」
「そんなことは無いさ。俺なんか悩みっぱなしの、人生だよ」
彼は、風呂の湯で顔を擦る。
「そうですか・・」
「俺はね、事業に失敗し、嫁さんに逃げられた」
「え~、それは辛いですね」
「そうだよ。辛かったさ・・」
彼は、その後を話したくないようだ。
「じゃ、お先に上がります」
「ああ、・・・」
さっぱりした気分で、食堂へ行く。ちょうど、出前のラーメンが届いた。
「ほれ、金ちゃん来たぞ。代金は立て替えたから、後で精算だよ」
「はい、分かりました」
「餃子も頼んでおいたけど、いいやな」
「ええ、構いません」
二人は、冷めないうちに食べ始めた。すると、ガヤガヤと他のメンバーが、匂いに誘われ食堂に集まって来た。
「なんだよ。二人して、こっそり食べているんだ」
大山が、口を尖らして不満な声。
「いいや、別に黙って食べていないよ。俺は大きな声で叫んだけど、誰も返事が無かった」
佐川が反発した。
「確かに、聞こえた。でもな、こんな匂いを嗅がせられたら、食べたくなったよ」
倉本さんが、その場を取りなした。その後、数人分の出前を追加する。