ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅩⅦ 

 自分では長く潜るつもりだったが、直ぐに息を切らして顔を出した。
「何やってんだ、金ちゃんは・・」
 川島が立っていた。
「いやぁ~、川島さん。気持ちを吹っ切るために、潜ったけど・・」
「何を、吹っ切るつもりなんだ?」
 川島が湯船の中に入って来た。彼は、俺と同じ群馬県出身。
「いや、そんなに深刻な問題じゃ、ないですけどね」
「そうか、誰でも悩みがあるからな」
 二人の会話は、風呂場の中にくぐもる。
「川島さんは、悩んでいるようには見えませんね」
「そんなことは無いさ。俺なんか悩みっぱなしの、人生だよ」
 彼は、風呂の湯で顔を擦る。
「そうですか・・」
「俺はね、事業に失敗し、嫁さんに逃げられた」
「え~、それは辛いですね」
「そうだよ。辛かったさ・・」
 彼は、その後を話したくないようだ。
「じゃ、お先に上がります」
「ああ、・・・」
 さっぱりした気分で、食堂へ行く。ちょうど、出前のラーメンが届いた。
「ほれ、金ちゃん来たぞ。代金は立て替えたから、後で精算だよ」
「はい、分かりました」
「餃子も頼んでおいたけど、いいやな」
「ええ、構いません」
 二人は、冷めないうちに食べ始めた。すると、ガヤガヤと他のメンバーが、匂いに誘われ食堂に集まって来た。
「なんだよ。二人して、こっそり食べているんだ」
 大山が、口を尖らして不満な声。
「いいや、別に黙って食べていないよ。俺は大きな声で叫んだけど、誰も返事が無かった」
 佐川が反発した。
「確かに、聞こえた。でもな、こんな匂いを嗅がせられたら、食べたくなったよ」
 倉本さんが、その場を取りなした。その後、数人分の出前を追加する。

×

非ログインユーザーとして返信する