偽りの恋 ⅩⅥ
西日が傾き、辺りが薄暗くなってきた。
「もう、帰りましょうよ」
「うん、帰ろうか・・」
公園を離れ、地下鉄で新宿に出る。新宿駅は人の群れでごった返し、歩くのに苦労する。車内に並んで座れた。あまり話すことも無く、秦野駅に着いた。
駅から寮までぶらりと歩く。ほどよい距離だ。
「疲れたね。仕事に、影響しなければいいけど・・」
「ううん、平気よ。明日は、遅番だからゆっくりなの」
「そうか、じゃぁ良かった」
「金ちゃんは?」
「俺かい? 明日の授業は午前中だけさ。居眠りさえしなければ、問題無いよ」
寮の前に来た。別れ際に、軽いキスを交わす。
「じゃ、また次回にね・・」
「うん、おやすみ・・」
寮の部屋に戻り、着替えを持って風呂場へ行く。先に誰かが入っていた。
「やあ、帰って来たんか。どうだった?」
同室の佐川だった。
「いや、疲れただけです」
「そんなことは、ないやろ。若い女の子と手を組んで・・。あ~、羨ましい~」
彼はザッブンと湯の中に顔を沈める。俺は洗い場で体を流し、ゆっくりと足を入れた。
「わっ! アッチチ・・。佐川さん、よくこんな熱い湯に、入っていられるね。驚いたなぁ。俺は我慢できない」
「慣れ、慣れだよ。まあ、水を足してもいいよ。俺はもう出るから・・」
水道の蛇口を思いっ切り開けた。
「あまり水を足すと、後の連中が文句を言うぞ」
「いや、大丈夫ですよ。程々に足しますから・・」
佐川は一旦出たが、顔を覗かせる。
「金ちゃん、ラーメンの出前を頼むけど、一緒にどうだい?」
日曜日は、寮のおばさんが休みなので、各自で適当に食べる。
「ああ、できれば一緒に頼んでください。お願いします」
誰もいなくなった湯船に浸り、唐突な展開になった一日を振り返る。
《果たして、あれで良かったのか? 数か月したら、寮を出なければならない》
俺は佐川の真似をして、湯船に沈む。限界まで、沈み続けた。