偽りの恋 ⅩⅢ
階段を下り、一階の普通席を見た。奥の席に目が流れる。楽しい時間を過ごしたはずの場所。
「どうしたの、金ちゃん?」
佐藤の声に、あの時間が幻のように消え去った。
「いいや、なんでもない・・」
外へ出ると、日差しが眩しく照らす。
「これから、どこへ行くの?」
「うん、例の議事堂前公園に行くよ」
俺の好きな場所だ。彼女との思い出も無い場所。気楽に過ごせると思う。
「私、まだ頭がボーっとしている。凄い経験をしちゃった」
「いや、俺もだよ」
「まあ、金ちゃんの嘘つき!」
「本当さ、俺は初心だよ。正真正銘の初心な男さ・・」
「うふふ・・、信用しませんよ」
二人は地下鉄に乗り、議事堂前公園駅に降りる。公園内は、誰もいない。
「本当だ、驚いたわ。こんな所に、公園があるんだ。それも素敵ね」
「うん、だから、俺の好きな場所なんだ」
歩きながら、俺の表情を窺う佐藤。
「金ちゃん!」
「なんだよ?」
「誰と来たの? 思い出の場所なの?」
俺は佐藤の顔を見た。
「いや、なんの思い出も無い場所。いつも独りで来ていた」
「ふ~ん、金ちゃんに、そんな場所があるんだ」
「ああ、そうだよ。誰にも邪魔されず、自分を見詰める場所かな?」
俺は、小さな池の前に座る。佐藤も並んで座った。
「じゃ、私が・・」
彼女がか細い声で、囁く。
「え、聞こえない。なんて言ったの?」
「私が初めてなの?」
佐藤が真剣な眼差しを向ける。
「うん、そうなるね」