ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅩⅢ

 階段を下り、一階の普通席を見た。奥の席に目が流れる。楽しい時間を過ごしたはずの場所。
「どうしたの、金ちゃん?」
 佐藤の声に、あの時間が幻のように消え去った。
「いいや、なんでもない・・」
 外へ出ると、日差しが眩しく照らす。
「これから、どこへ行くの?」
「うん、例の議事堂前公園に行くよ」
 俺の好きな場所だ。彼女との思い出も無い場所。気楽に過ごせると思う。
「私、まだ頭がボーっとしている。凄い経験をしちゃった」
「いや、俺もだよ」
「まあ、金ちゃんの嘘つき!」
「本当さ、俺は初心だよ。正真正銘の初心な男さ・・」
「うふふ・・、信用しませんよ」
 二人は地下鉄に乗り、議事堂前公園駅に降りる。公園内は、誰もいない。
「本当だ、驚いたわ。こんな所に、公園があるんだ。それも素敵ね」
「うん、だから、俺の好きな場所なんだ」
 歩きながら、俺の表情を窺う佐藤。
「金ちゃん!」
「なんだよ?」
「誰と来たの? 思い出の場所なの?」
 俺は佐藤の顔を見た。
「いや、なんの思い出も無い場所。いつも独りで来ていた」
「ふ~ん、金ちゃんに、そんな場所があるんだ」
「ああ、そうだよ。誰にも邪魔されず、自分を見詰める場所かな?」
 俺は、小さな池の前に座る。佐藤も並んで座った。
「じゃ、私が・・」
 彼女がか細い声で、囁く。
「え、聞こえない。なんて言ったの?」
「私が初めてなの?」
 佐藤が真剣な眼差しを向ける。
「うん、そうなるね」

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