偽りの恋 Ⅹ
駅構内を歩き回った後、新宿駅西口に出る。あてもなく歩く。
「金ちゃん、どこかでお昼を食べようよ」
「そうだね。何が食べたい?」
前に、花園近くのピット・インにジャズを聴きに来たことがあった。その辺を歩き、適当な洋食レストランに入る。
「俺は、ビーフシチュウにするよ。佐藤さんは、何する?」
「私は、このピラフにするわ」
佐藤は、メニュ―の写真を見ながら、指で示す。待つ間、二人は共通する話題が無い。
黙って、グラスの水を飲む。
「私、デートしたことが無いから、どんな話をするか困っちゃう。金ちゃんなら、経験が豊富でしょう?」
「いや、そんなことは無いよ。いつも孤独さ・・」
「まあ、嘘ね。誤魔化してもダメ。顔に書いてあるわ」
「本当だよ。だって、いつも片思いだから、デートなんて縁が無い」
「え・・」
注文の品が運ばれてきた。佐藤は何かを言いかけたが、黙って食べ始める。
「本当は、今回のデートだけど・・」
俺は、正直に話すべきか悩んでいた。
「いいの、分かっているわ。坂本さんの考えね。それに、駅のことも」
「えっ? 知っていたんだ」
「もちろんよ。見え見えだったもの」
「アッハハ・・、な~んだ。バレバレかぁ、しょうがないな」
「知らないのは、あなたたち二人よ」
食事の間、共通の話題ができた。ようやく、肩の荷が下りた気がする。
「食べたら、どこへ行くつもりなの」
「うん、国会議事堂前公園へ行こうかと、思っているんだ。あそこは静かな場所だから、ゆっくりできよ」
「私の知らない場所ね」
「ああ、意外と知られていないよ」
レストランを出るが、食事代は佐藤が支払った。俺が財布を出すと、手で押さえられてしまった。
「いいの、これは私が払う。デート指南料よ」
「え~、指南料って、なんだよ」