偽りの恋 Ⅵ
今日は休日なので、寮の食事は朝食だけ。昼と夜は各自で考える決まりだ。
四人は、公園の近くにある小さな洋食のレストランに入った。時間的に、店の中は空いていた。坂本の案で、別々のテーブルに座る。
「ここのオムライスが美味しいの、私はそれにするわ」
佐藤が勧める。
「うん、俺もそれにするよ」
若いウエートレスが注文を聞きに来る。無愛想な顔で、冷えた水のグラスをテーブルの上に置く。佐藤がオムライスを二つ頼んだが、返事も無く行ってしまった。
「ずいぶん、愛想が無い子だね」
「ふふ・・、いつもそうなの。女子寮のみんなも知っているわ」
「へ~、そうなんだ」
「確か、あの子は山形の子よ。訛りを気にして、話すのが怖いのよ」
ウエートレスの後ろ姿に、俺は不憫を感じた。
「佐藤さんは、怖くなかったの?」
「ええ、関東に来た頃は、私も怖かった。でも、慣れれば平気よ」
俺は、佐藤の目を見る。愁いのこもる瞳だった。
同じ瞳を思い出す。心底に封印したはずの瞳。
「どうしたの? 急に私の顔を見詰めるなんて・・、恥ずかしい」
「あ~、いや、ごめん」
俺は戸惑い、謝った。
「一つ、聞いてもいいかしら?」
その言葉に、俺の心は不安を覚える。
「ん、何を?」
「金ちゃんに、恋人がいるでしょう?」
やはり、不安は的中した。どう答えるか困惑する。
「どうして、そんな質問するんだい?」
俺は冷静さを装う態度で、聞き返した。
「ふふ・・、私には分かるの。凄く苦しんでいる金ちゃんの心が・・」