偽りの恋 Ⅳ
坂本が現れると、互いに名前を伝えた。
「ほな、金ちゃん行こうか~」
「えっ、どこへ?」
女の子が案内する近くの池らしい。そこは、歩いて行ける場所だ。
「金ちゃん、右の子は自分に任せるからな」
寮生活を始めて直ぐに、俺の名前を金ちゃんと呼ばれるようになった。誰が最初に呼んだのか、俺にも分からない。
「なんで、俺が左の子なんだ?」
「左の子、ちゃうよ。金ちゃんは右の子・・」
「だって、右は自分って言ったじゃん」
「ほんまに、おもろい話や。大阪では、相手を自分と言うんや」
「なんだ、そうか。紛らわしいな・・」
坂本は、左の子と並んで歩いた。俺は仕方なく右の子に話し掛ける。
「佐藤さんは、どこ出身なの?」
「青森の弘前よ。知っている?」
「ああ、地名は知っているよ。だけど、行ったことがない」
「ふ~ん。それで、あなたは?」
「俺は、群馬県の高崎だよ」
佐藤は、首を傾げ考えている。特に美人タイプではないが、色白で仕草が可愛い子だなと感じた。
「知らないんだ?」
「うん、群馬県は知っているけど、高崎は知らない」
「そうか、それにしても、東北訛りじゃないね」
「仲間同士なら訛りがでるけど・・」
話しながら歩いているせいか、池の公園に早く着いた気がする。
「金ちゃんは、ボートが漕げる?」
池には、ボートの貸し出し場があった。既に、池の中ほどに数隻が見える。
「ああ、上手に漕げるよ」