謂れ無き存在 ⅧⅩ
駐車場に車を停め、公園の敷地内に入る。林に囲まれ人影が少なく、俺が想像した以上に静かな公園であった。
公園の中心に大きな池があり、その脇に日本風の小屋が見えた。
「お母さん、あれが東屋よ」
「へえ~、本格的で、凄いわね」
「トーマス小父さんも、ボランテアしたそうよ。職人さんの技能が直接に見られて、手伝うのが楽しかったって・・」
「そうでしょうね。日本では、もう簡単に見られなくなったわ。あら、池の向こう岸に鳥居が・・」
「ええ、その横に大きな石が並べられ、上毛三山を模写した庭があるの」
仲良く手を繋いで歩く、真美と明恵母さんの姿。二人の様子に、俺は幸せを感じた。
「洸輝君、嬉しそうに見ているけど、どうしたのかな?」
「はい、あの二人が幸せに見えて・・」
「そうだね。今回の運命は、あの二人が主役だと思う。私は、前から知っていたよ」
「えっ、何を知っていたのですか?」
俺はオヤジさんの言葉に驚く。明恵母さんと真美、二人に関係することなのだろうか。オヤジさんは、何かを知っている。
「実は、運命の物語は、明恵の意志によるもの。と言うか、君や真美さんのお母さんと明恵が、描いた物語だった。それを現実に結び付けたのが、最後に残された明恵の不思議な能力かもしれない」
オヤジさんの話は、直ぐに理解できるものではなかった。俺の運命は、三人の女学生の夢物語から始まった。俺の軽い脳は洞察力が乏しく、どのように解明すればよいか判断に苦しむ。
「じゃあ、俺と真美の出会いは、作られた運命だったのですか?」
俺の強い眼差しを、オヤジさんは軽く受け止めた。
「いいや、誤解しないでくれ。作られた運命ではない。運命なんて、人間の力では作れないよ」
「母さんたち三人の意志で描いた、運命の物語でしょう?」
オヤジさんは、池の向こうで手を振る二人の姿を眺め、言葉を選んで説明を始めた。