謂れ無き存在 ⅥⅩⅦ
バトル・クリークに向かう道路は広く、対向車線を走る車が少なかった。周りの景色は紅葉が見事であった。
「本当に綺麗、想像以上の紅葉だわ。ねえ、あなた!」
「ああ、色が鮮やかだ・・」
オヤジさんが、ひっきりなしにカメラのシャッターを押す。
「でも、この紅葉の景色は、確か北海道東部の女満別空港の周辺に似ている」
「そうね、飛行機が降りるとき、凄い景色が見えたけど。ええ、思い出したわ。うん、確かに似ているわ」
「俺は初めてです。こんな景色を見るのは・・。綺麗ですね」
街並みが見えて来た。大きなビルは少なく、静かな人口五万人ほどの地方都市だった。
宿泊は、中心にあるセントラル・ホテル。ホテル前にタクシーが停まる。トーマス小父さんが荷物を降ろし、ロビーまで運んでくれた。
真美がトーマス小父さんに耳元で囁いている。すると、大きく両腕を広げて、真美をハグした。彼女の頬に幾度もキッスをする。真美も喜んでいた。
小父さんは、俺に近づいてくる。
「えっ?」
俺を強く抱き締め、幾度も背中を叩き何かを話す。
「真美、意味が分かんないよ」
「結婚して、私のダーリンだからと紹介したの。だから、ハグしているのよ」
俺は理解したが、言葉が見つからない。
「センキュウ、センキュウ・・」
俺は礼を繰り返すしかなかった。小父さんはハグが終わると、力強い握手に変わった。
次に、俺の顔を見て、微笑む。
「ユア ネイム?」
この英語は理解した。
「コ・ウ・キ」
「オウ、コウキ! グッド ネイム。 マイ ネイム トーマス オジサン ネ。ヨロシク ネ」
「あはは・・、トーマス小父さん! こちらこそ、宜しく」
明恵母さんは、流暢な会話でトーマスと打ち解けた。オヤジさんも互いに肩を叩き、談笑する。
真美が俺たちを呼んだ。ホテルの受付で宿泊手続きを行なう。