謂れ無き存在 ⅥⅩⅥ
こぢんまりしたロビー。二十人程度が座れる広さだった。一緒に降りた人たちは、地元の住人と思われる。迎えや駐車場の自家用車に乗って、姿を消してしまった。
「車が来たわよ。さあ、行きましょう」
外には、十人ほどが乗れるカーゴ車が待っていた。まるでクロネコ・ヤマト宅急便の車に似ている。
「ホ~ゥ、これか。こりゃぁ、荷物を載せてもゆったりだ」
オヤジさんが驚き、感心した。
「そうですね、普通のタクシーより便利だ」
大柄な運転手が、荷物を載せる。積み終わると、俺たち全員に笑顔で挨拶。真美が、早口で話し合っている。大柄な運転手は、愛想笑いをしながら大きく頷いていた。
「じゃあ、出掛けるわよ。バトル・クリーク市まで一時間だけど、辛抱してね」
俺は明恵母さんと窓から見える、景色に興味を示す。そこに、オヤジさんも加わる。真美は、運転手と話しが止まらない。時折、大声で笑っていた。
《真美の表情は、初めて見るイメージだ。まったく違う》
真美が後ろを振り向く。
「何が違うの? どっちが好きかしら・・」
「おい、おい、英語を喋っているのに、俺の考えを盗むなよ」
真美が、またイメージの違う方法でウインクをする。
「これは、どんな感じかしら・・」
オヤジさんが笑い出す。
「さっきから、ふたりで何をしているんだい」
「あっ、お父さん。洸輝がつまらない詮索をするから、からかっているの」
「なんだよ、俺は真面目に考えている。どっちが、真美らしいのか比べていたんだ。明恵母さんは、どっちだと思いますか?」
急に質問された明恵母さんは、困った様子。代わりに、オヤジさんが答えた。
「そうだね、英語で話す真美さんを初めて見たが、大人の女性らしく思えた」
「私も、同じように感じたわ。真美のお母さんに、そっくりよ」
明恵母さんの言葉に、真美が嬉しそうに反応した。
「やっぱり、そう感じた? このトーマス小父さんが、ママに似てるって言うの」
真美が、トーマスを紹介した。彼は、真美の母親と親しかった。生きている間は、真美の家に遊びに来ていたらしい。養父のドイツ人とも、釣り仲間だった。