謂れ無き存在 ⅤⅩⅢ
明恵母さんの言葉に、真美は事情が分からずキョトンとしている。
「奥さん、どうしますか? 俺の靴を脱がしてください」
ハッと気付き、まんまと謀られたことを知った。
「あら、ダ~リン! お手伝いしますわ」
俺の服を脱がせようとする。これには焦った。
「わ、分かったよ。ご免、ご免、謝るから・・」
そこへ、オヤジさんが帰って来た。
「玄関口で、服を脱ぐなんて・・。何している?」
「あっ、お帰りなさい。洸輝の脳みそが壊れたの。運命の人じゃ、なかったわ」
真美の切り替えの早さに、俺は感心する。
「そうか、結婚できそうにないね。仕方ない、別れなさい」
オヤジさんの対応に、俺の脳みそは崩壊寸前。
「いや、いや、間違いですよ。絶対に別れませんから・・、明恵母さん!」
俺は焦り、明恵母さんに助けを求める。
「まあ、可哀そうに、もうイジメは止めなさい。さあ、お茶にしましょう」
明恵母さんのお陰で、全員が居間のテーブルへ移動できた。
《ふぅ~、助かった。先が思いやられるなぁ~、真美を怒らせたら大変だ》
「そうよ、私を怒らせたら、洸輝は生きて行けないわ」
俺の考えに真美が答える。突然の言葉に、明恵母さんとオヤジさんが目を凝らす。
「何を言うの、真美・・。驚かせないでね。あなたは、淑やかさが似合う女性よ」
明恵母さんが真美を見つめ、物静かに戒めた。真美は穏やかに頷く。
「それに、洸輝さん! あなたもよ。真美を大事にしてね」
「ふたりは異環境で生まれ育った。意見の対立は必然だ。時には必要だが、感情を中心とする喧嘩はダメだ。特に意味の無い夫婦喧嘩なんて、犬も食わんよ」
「はい、オヤジさん。真美と会って日が浅く、彼女に対して理解不足でした。これからは、気を付けます」
「そうか、良かった。まあ、夫婦喧嘩でなく兄妹喧嘩なようなものさ・・」
オヤジさんは、テーブルの上にみたらし団子を置く。
「お客さんの家で、お土産に頂いた。さて、食べようか・・」
真美がキッチンへ行きお茶の用意をする。
《真美、ゴメンな。だけど、余りにも可愛すぎて、構いたくなるんだ》
俺の心を読むと思い、心の中で呟く。