ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅤⅩⅡ 

 やはり、真美は俺の心を読んでいた。
「そんな見え透いた考え、許すと思うなら大間違いよ」
「えっ、俺は何も考えていないぞ」
 頬を膨らませ俺の前に立ち塞がる。そして、胸の前で腕を組み、上目使いで身構えた。
《ほ~ぅ、なんて、可愛い仕草をするんだ。う~ん、参ったなぁ。ふふ・・》
 彼女の膨らんだ頬を、俺は両手の人差し指で押した。すると、尖らせた口からプッと息が漏れる。
「アッ!」
 真美が驚きの声を上げた。
「アッハハ・・」
 俺は大笑い。その様子に明恵母さんも笑い出した。
「ウッフフ・・、ホホ・・」
 真美は顔を赤らめ、睨むのを止めて一緒に笑う。
「フフ・・、お母さん! 助けてよ」
「私には、助けられないわ。だって、フフ・・、あなたたちの、仲が良い証拠だから・・。フフ・・」
 お寺を出ると、俺は完全に除け者扱いだった。明恵母さんと真美は腕を組み合わせ、ヒソヒソと話しながら歩く。俺は憮然として、後ろを振り向かず前を歩いた。
 俺の頭は、母のことで一杯だった。
《お墓と名前が分かり、母さんに親近感を覚えた気がする。でもなぁ、今になって慕う? 無理だよなぁ~。長い間に、母さんの存在感は消えたようなもの・・》
 俺はボーっとして、家の前を通り過ぎる。後ろから、思い切り叩かれた。
「うぉっと! な、なんだ?」
 俺は驚き、後ろを振り向く。
「丸で夢遊病者よ。どこへ行くつもりなの?」
 真美が呆れた顔で、俺を家の玄関先に案内する。
「あっ、そうか。全然、気が付かなかったよ」
「さあ、靴を脱いで! 脱げる? ダメなら、手伝うわよ」
 愉快そうにほくそ笑む真美。
「靴? 靴って脱ぐものなんだ」
 俺はわざとらしく途方に暮れる。そして、上着も脱ぐ。
「お母さん! 早く来て! この人、頭がボケたみたい・・。困ったわ」
 明恵母さんは、俺の誤魔化しを見抜き、澄ました顔。
「あら、大変ね。キツネにでも、取り付かれたのかしら? 奥さまが、お祓いしてあげてね・・」

×

非ログインユーザーとして返信する