謂れ無き存在 ⅤⅩⅡ
やはり、真美は俺の心を読んでいた。
「そんな見え透いた考え、許すと思うなら大間違いよ」
「えっ、俺は何も考えていないぞ」
頬を膨らませ俺の前に立ち塞がる。そして、胸の前で腕を組み、上目使いで身構えた。
《ほ~ぅ、なんて、可愛い仕草をするんだ。う~ん、参ったなぁ。ふふ・・》
彼女の膨らんだ頬を、俺は両手の人差し指で押した。すると、尖らせた口からプッと息が漏れる。
「アッ!」
真美が驚きの声を上げた。
「アッハハ・・」
俺は大笑い。その様子に明恵母さんも笑い出した。
「ウッフフ・・、ホホ・・」
真美は顔を赤らめ、睨むのを止めて一緒に笑う。
「フフ・・、お母さん! 助けてよ」
「私には、助けられないわ。だって、フフ・・、あなたたちの、仲が良い証拠だから・・。フフ・・」
お寺を出ると、俺は完全に除け者扱いだった。明恵母さんと真美は腕を組み合わせ、ヒソヒソと話しながら歩く。俺は憮然として、後ろを振り向かず前を歩いた。
俺の頭は、母のことで一杯だった。
《お墓と名前が分かり、母さんに親近感を覚えた気がする。でもなぁ、今になって慕う? 無理だよなぁ~。長い間に、母さんの存在感は消えたようなもの・・》
俺はボーっとして、家の前を通り過ぎる。後ろから、思い切り叩かれた。
「うぉっと! な、なんだ?」
俺は驚き、後ろを振り向く。
「丸で夢遊病者よ。どこへ行くつもりなの?」
真美が呆れた顔で、俺を家の玄関先に案内する。
「あっ、そうか。全然、気が付かなかったよ」
「さあ、靴を脱いで! 脱げる? ダメなら、手伝うわよ」
愉快そうにほくそ笑む真美。
「靴? 靴って脱ぐものなんだ」
俺はわざとらしく途方に暮れる。そして、上着も脱ぐ。
「お母さん! 早く来て! この人、頭がボケたみたい・・。困ったわ」
明恵母さんは、俺の誤魔化しを見抜き、澄ました顔。
「あら、大変ね。キツネにでも、取り付かれたのかしら? 奥さまが、お祓いしてあげてね・・」