謂れ無き存在 ⅤⅩ
確かに、何も疑わず導かれるまま、ここに来ている。
「不思議なことに、主人が骨壺を納めようとしたとき、声無き声が主人の体へ伝わったそうよ・・」
「・・・」
俺は目を見開き、ただ呆然と聞き入るだけだ。
《あのチラシだけど、アパートの郵便受けに挟まっていた。他の住人には挟まっていないので、俺は訝しく感じ捨てようと思った。だけど、何故かタイトルに惹かれて、ポケットに仕舞ったんだ・・》
「明恵母さん・・、オヤジさんはセミナーのチラシを配るの?」
「あっ、そうだ。私も聞きたかったの」
「えっ? どうして、真美も知りたいんだ?」
真美は説明する。彼女は、運命の人にどこで会えるのか悩んでいた。それが、セミナーの前夜に、いつもの人影が夢に現れ、郵便受けのチラシを教える。翌朝、郵便受けのチラシを発見してセミナーに参加した。
「奇妙な話しよね。誰かが、郵便受けにチラシを入れたのよ・・。絶対に、そうでしょう?」
「いいえ、あの人は配らないわ」
三人は揃ってため息を吐く。そして、其々のカップの紅茶を飲んだ。
「まあ、いいことにしようよ。洸輝のお母さんが、私たちを結びつけるために配ったと思えば・・」
「そうだな、考えても仕方がないもんなぁ。結果的には会えた訳だし・・」
「そうね、こうして家族ができたもの・・」
明恵母さんも元気な顔を見せる。俺はホッとした。真美が俺の背中を、手のひらで軽く擦る。
「お墓は近いの? ねえ、お母さん・・」
「お寺は直ぐそこよ。歩いて、十分位かな・・。今から、行ってみる?」
「じゃぁ、お願いします。お線香は有りますか?」
「ええ、用意するわ」
明恵母さんを挟んで歩く。
「まあ~、嬉しいわ。こんなの初めてよ」
「良かったね、お母さん・・。これからは、いつもよ」
俺は黙って歩くが、ふたりのお喋りはお寺まで続く。境内に入ると、さすがに静かになった。こぢんまりしたお堂の横を通り、裏手の墓地に着いた。