ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅤⅩ 

 確かに、何も疑わず導かれるまま、ここに来ている。
「不思議なことに、主人が骨壺を納めようとしたとき、声無き声が主人の体へ伝わったそうよ・・」
「・・・」
 俺は目を見開き、ただ呆然と聞き入るだけだ。
《あのチラシだけど、アパートの郵便受けに挟まっていた。他の住人には挟まっていないので、俺は訝しく感じ捨てようと思った。だけど、何故かタイトルに惹かれて、ポケットに仕舞ったんだ・・》
「明恵母さん・・、オヤジさんはセミナーのチラシを配るの?」
「あっ、そうだ。私も聞きたかったの」
「えっ? どうして、真美も知りたいんだ?」
 真美は説明する。彼女は、運命の人にどこで会えるのか悩んでいた。それが、セミナーの前夜に、いつもの人影が夢に現れ、郵便受けのチラシを教える。翌朝、郵便受けのチラシを発見してセミナーに参加した。
「奇妙な話しよね。誰かが、郵便受けにチラシを入れたのよ・・。絶対に、そうでしょう?」
「いいえ、あの人は配らないわ」
 三人は揃ってため息を吐く。そして、其々のカップの紅茶を飲んだ。
「まあ、いいことにしようよ。洸輝のお母さんが、私たちを結びつけるために配ったと思えば・・」
「そうだな、考えても仕方がないもんなぁ。結果的には会えた訳だし・・」
「そうね、こうして家族ができたもの・・」
 明恵母さんも元気な顔を見せる。俺はホッとした。真美が俺の背中を、手のひらで軽く擦る。
「お墓は近いの? ねえ、お母さん・・」
「お寺は直ぐそこよ。歩いて、十分位かな・・。今から、行ってみる?」
「じゃぁ、お願いします。お線香は有りますか?」
「ええ、用意するわ」
 明恵母さんを挟んで歩く。
「まあ~、嬉しいわ。こんなの初めてよ」
「良かったね、お母さん・・。これからは、いつもよ」
 俺は黙って歩くが、ふたりのお喋りはお寺まで続く。境内に入ると、さすがに静かになった。こぢんまりしたお堂の横を通り、裏手の墓地に着いた。

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