謂れ無き存在 ⅣⅩⅤ
俺は肉の脂が苦手だ。250gの特大ヒレステーキを注文した。真美も負けずに注文。
「真美、本当に大丈夫か?」
「平気よ。お金も胃袋も・・、安心して食べなさい」
真美は、店内を見渡し、何故か嬉しそうな様子。
「どうして、そんなに嬉しそうな顔を、しているんだい?」
「んん、だって、今までは来れなかった場所よ」
「どうして? いつでも来れる場所だろう?」
彼女は、相好を崩し説明する。
「だって、女の子ひとりでは来れないわ。前から来たかったのよ。特に洸輝と一緒に来れて幸せ・・。大好きよ、ダ~リン!」
「アハハ・・、それは良かったね」
「うふふ・・、飲み物を持って来るね。何が欲しい?」
「メロン・ソーダでいいよ」
「えっ?」
「メロン・ソーダ!」
「はい、はい、子供の飲み物ね」
図星を指され、血圧が一気に上昇。ムッとする。俺は待っている間、反論する言葉を考えていた。
「はい、召し上がれ」
メロン・ソーダのグラスが二つ置かれた。
「おっ、・・」
俺はグラスと彼女の顔を、交互に見比べてしまった。
「私も飲みたかっただけよ。悪いかしら?」
「だ、だって、子供の飲み物だからと・・」
「だから、どうしたの? 一緒に同じ物を飲んだらいけないの?」
やはり、俺の軽い脳は、反論の能力に欠けていた。俺は惨敗だ。
「ふふ・・、やっぱり洸輝は子供ね。だ・か・ら、大・好きなの・・」
そこへ、注文のステーキがジュジュと音を立てながら、テーブルに置かれた。俺の軽い脳は、負け戦から逃げ出すことを指示する。
「ワォ、さあ、食べるぞ!」
喜んで食べる俺の様子を、真美はしばらく眺めていた。
「真美! 俺の不味い顔を見ているより、こっちの方が美味しいぞ」
「アハハ・・、そうだね。私もお腹が空いたわ」
俺は真美の心を感じた。こうして戯れながら過ごす時間に、彼女は飢えていたと思う。これからは、決して寂しい思いをさせない。俺は心に誓った。