ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅣⅩⅣ 

 ふたりは観音様を見上げる。
《こうべを少し垂れ、優しい眼差しで見詰める顔。ふっくらとした顔は、真美に似ているなぁ。とても綺麗で美しい》
「いや、それほどでも・・」
「え、何が?」
「ママたちもここに来て、何かを願ったんでしょうね」
「うん、そうかも・・。さあ、帰ろうか?」
「ええ、帰りましょう。少し寒くなったわ」
 しばらくして、忠霊塔前の駐車場へ戻った。
「真美! 駐車場横に喫茶店があるんだ。ちょっと、寄って行かないか?」
「いいわよ・・」
 静かな趣のある喫茶店であった。前から入りたいと思っていた。奥の窓際に座る。
真美が店内を見渡し、俺の顔を覗く。
「へぇ~、素敵な場所を知っているのね。誰かと内緒で来たことがあるんだ?」
「ううん、初めてだよ。好きな人ができたら、ここへ来ようと考えていた。真美と来れて、想いが叶った訳だ」
「それなら、いいわ・・。紅茶を頼むんでしょう? それにケーキも・・」
「ケーキはいらないよ。もう直ぐ昼だからね」
 窓から見える景色を眺め、ゆっくり時間を過ごす。
「これから、どうするの?」
「あぁ、不動屋さんへ行くつもりだ。それに、引っ越しの業者にも」
「洸輝、昼食を食べてからでいいよね」
「勿論さ。何を食べようか・・」
「私が奢るから、ステーキを食べようよ」
「いいや、俺が払う。今日、お金が入ったからね」
「ダメよ。そのお金は、引っ越しの費用だから・・」
 俺は従うことにした。ここで意地を張り、争って損をするのは俺だと思う。
「分かった。でも、ここは俺が払うよ」
「いいわよ、ダーリン」
 危ない眼差しで、俺を見詰める。俺は降参だ。喫茶店を出て、車に戻る。
 市内のステーキ専門のファミレスへ直行した。昼時間をずらしたので、待つことなく座れた。俺は久々の牛肉だった。
「まあ、驚いた。涎を垂らすほど、締まりがない顔」
「だって、一年振りに食べるからだよ。ああ、我慢ができない」

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