謂れ無き存在 ⅢⅩⅦ
「君は、このことを知っていたのかい?」
「ええ、知っていたわ。でも、運命の人があなたとは分からなかった」
確かに真美の言うとおりだ。偶然としか思えない。
「そうだね。この二日間が目まぐるしく感じる。精神的に参ったよ」
「洸輝・・、メランコリーにならないでね。心配だわ」
《メランコリー? あっ、そうか。うつのことか・・》
真美の瞳が俺の瞳を捕らえ、掴んでいる俺の手に軽く唇を寄せた。あどけない顔に眉をひそめ、俺の心を心配する。
俺は目の前の無邪気な顔に、なんの疑念も持たず心が奪われてしまった。真美の無垢な心が、俺の心を癒してくれると確信する。
《言葉で言い表せない感情が、心の深層から浸潤する。これが愛の感情なのか?》
俺の瞳を捕らえる真美の瞳が明るく輝き、俺の心底に潜む煩悩を飲み込んだ。
「うふふ・・、私の気持ちを理解してくれたのね。そうよ、これが私たちの愛なの」
「うん、そうだね。理解できたよ」
「じゃぁ、言葉で言って!」
一瞬たじろぐが、素直に心から声が出た。
「真美・・、愛しているよ」
「私もよ。ずっと愛してね・・」
両手を掴む俺の手を離し、俺の首に腕を絡ませる。俺も背中に腕を回して抱きしめた。そのままソファに横になり、熱い唇を交わす。首に絡ませた真美の腕が、思いっきり力を加えた。
ふたりは、全ての思考を止める。ただ、互いに愛の感情だけを確認し合った。しばらくしてシャワーを浴び、寝室へと場所を移す。その夜、ふたりは初めて経験する愛の行為を、ぎこちなく過ごした。
翌朝、俺の体に纏わる温もりが、がさつに動き回る。左腕にしびれを感じ、目を覚ます。
「おはよう・・」
俺の目覚めに、真美が声を掛けた。しびれる腕をそのままに、体を真美の方へ向けた。
恥じらう彼女の顔を間近に見る。
「やあ、おはよう・・」
一糸もまとわない真美の体が寄り添い、熱いひと肌を俺の体へ直に伝えた。
「これで、運命の人になれた。そうでしょう?」
「ああ、間違いないよ、真美・・」