ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅢⅩⅠ

「ご免なさいね。早く引き取るべきだった。随分、迷ったの。あなたのお母さんが、迎えに来ると思って・・。あなたが小学生になってから、密かに通い続けたわ」
「ええ、誰だか分からないけど、俺を見ている人がいると感じていた。ある時、仲間のヤッちゃんが、その人に声を掛けたら逃げちゃったらしい」
《俺は母親と思っていた。何故、逃げるんだ。どうして、俺の前に現れないんだ。顔を見たかった。一度でいいから・・》
「それは私・・。逃げるつもりは無かった。でも、あなたの笑顔と元気な様子を見て、安心したからよ」
「そうか・・、明恵母さんでしたか・・。今まで、ずーっと自分の母親と思っていた」
 俺の心は複雑に絡み合った。逃げてしまったけど、自分の母親が来てくれた。俺のことを心配している。だから、心の底に温もりを感じ、いつの日か必ず迎えに来ると信じていたのである。しかし、真実は違っていた。現実は見捨てられたまま・・。俺は大きく溜め息を吐いた。
「洸輝、大丈夫?」
 真美が心配する。俺は毅然とした態度で、明恵母さんを見詰める。
「俺を見守ってくれて、ありがとう!」
「いいえ、残念だけど、私にはそれしか方法がなかったの」
「洸輝、大好物のシチュウが冷めてしまうわ。さあ、食べて元気になってね」
「うん、そうだね」
 俺は懸命に食べた。幸せな味だった。真美も顔を赤らめ、美味しそうに食べる。食べながら、顔を見合わせ微笑んだ。
「良かった。本当に良かったなあ~」
 先生? いや、オヤジさんが初めて見せる心からの笑顔。その笑顔は、俺の心を揺さぶり深く感銘させ、俺の人生を委ねても良いと思った。
「そうよ。お父さんに委ねなさい。私も安心したわ」
 真美の突然の言葉に、明恵母さんが反応した。
「真美、何を主人に委ね、安心したの?」
「あ~ぁ、洸輝の気持ちよ。私ね、洸輝の心が読めるの」
「そうなんですよ。彼女は、俺の心をいつも盗み見している。だから、隠し事ができない」
「え~、凄いわ。真美は、そんな能力を持っているの?」
 真美は恥じらいながら、俺の顔を見た。

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