ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅡⅩⅦ 

「真美、これは俺だけの問題じゃない。俺と一緒にやろう」
 彼女は俺の気持ちを理解する。ふたりで他のロウソクを灯す。新しい家族四人は、灯されたロウソクを見詰めた。
「さあ、みんなで一緒に消してから、ケーキ―を食べましょう」
 真美が音頭を取って、一斉に息を吹きかける。消えたロウソクから、四本の煙が立ちのぼり絡み合った。その様子を静かに見守る四人。大きく息を吸い其々の肺を満たしてから、ふ~っと吐き出す。
「頂き、ま~す」
「あっ、洸輝! 狡い」
 俺と真美が競い合って食べ始めた。
「オホホ・・、まあ、そんなに慌てなくても・・。ホホ・・」
「本当だ、アッハハ・・」
 四人は見詰め合い、笑った。
「お母さん! 分かったら、教えて・・」
 真美がケーキーを三口ほど食べてから、思い出したらしく。
「何が知りたいの?」
「この歌だけど、“緑のそよ風、いい日だね。ちょうちょも・・”」
「あ~、懐かしいわ。それね、あなたのお祖母さんの時代、確か昭和23年頃に作られた童謡よ。でも、どうして?」
「ママが歌っていたと思うの。子守唄の様に・・」
「高校の校内合唱コンクールで歌ったの。特に、真美のお母さんが大好きで、いつも口ずさんでいたわ。あっ、そうだ。その時のアルバムが有るはずよ。持って来るから、ちょっと待ってね」
 奥さんは急ぎ二階の部屋へ行く。しばらくして、バタバタと階段を下りてきた。
「ねっ、有ったでしょう。ほら、洸輝君のお母さんもいるわ」
 俺は、心臓が飛び跳ねた。ドキドキしながら覗き込む。
「えっ、どれが母さん?」
「私はこれで、左が真美のお母さん。真ん中にいるのが、あなたのお母さんよ」
 先生の奥さんは、直ぐに判明。真美の面影がある女学生は、優しく微笑んでいる。もうひとりは全く見覚えが無い。
《これが、俺の母親? 何の不自由も感じない女学生。その何年後かに、俺を捨てた女学生だ。愛しさより、怒りと虚しさを感じる》
 俺の五官全てが嫌悪感で疼き、体中に耐え難い痛みが走る。俺は拳を強く握った。
「洸輝・・」
 やはり、真美は俺の心を感じ、俺の腕を抱いた。奥さんも俺の表情に気付き、心配な顔を見せる。

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