謂れ無き存在 ⅡⅩⅤ
「さて、洸輝君の率直な意見を聞こう。どうかな?」
俺の心は彷徨っている。家族の絆が意図する意味を、漠然と理解するも不自然さを感じた。
《家族なんて、なんだ。絆の結び目が解ければ、簡単にバラバラだ。二十数年間、誰も手を差し伸べない》
「ん? 俺には、自分の存在自体が理解できないんだ。何を目的に生まれ、生きて来たのか。俺には、何一つ取り柄が無い。生活を維持して行く根拠も無い。折角家族を手に入れても、満足させられないよ」
「分かるは、洸輝の気持ち。それが、全てではないの。結び目が解けたら、新たに結べばいいわ。私と一緒に・・」
「ええ、そうよ。私たちが家族になるの。これからは、洸輝君ひとりではない。みんなで考えて、協力し合えば満足できると思うわ。だから、怖がらずに信じてね」
俺は、真美や奥さんの言葉に、胸が熱くなる。こんな気持ちを感じたのは、初めての経験だ。過去の辛い孤独な日々が、心の奥から薄れて行く。
「洸輝君、私の仕事を手伝ってくれないか?」
「えっ、運命の会を、ですか?」
「いやいや、私にはれっきとした仕事が有る。別の場所で、福祉医療機器のお店をやっているんだ」
「私も手伝えるかしら?」
「もちろんだ。こちらから頼みたいと思っていた」
俺にとって思わぬ展開になった。柿を食べながら、仕事の内容を想像する。果たして、できるだろうか。少し心配になった。
「できるわよ。あなたに向いていると思う。ねぇ、お父さん!」
「おっ、お父さん・・? 真美の頭は切り替えが早い。驚いたなぁ~。ワハハ・・」
「アッハハ・・、いやぁ~、照れるな~。ハハ・・」
「本当ね。真美さんは可愛いわ・・。ウフフ・・」
居間が笑いで包まれた。
《真美は明るい家庭向きだな。どんな家族を築くんだろう・・》
真美が笑いを止め、神妙な顔になる。そして、ポツリと呟いた。
「そうよ、私は明るい家庭が好きなの。だから、一緒に築こうよ」
俺は真美の言葉に、答えてしまった。
「うん、そうだね・・」
「やった~! お母さん、聞いた? 洸輝の返事を・・」
「ええ、確かに聞きましたよ。良かったね」
「私も聞いたよ」
「え~、真美にやられたぁ~」
温かい家族の会話が続く。俺の運命が変わる気がした。