謂れ無き存在 ⅡⅩⅡ
「私と洸輝の運命は、どうなの? 約束があったから、ママが夢に現れたのでは・・」
真美は夢に現れた母親が、あの講義に参加を勧めたと思っている。
《俺は、自分の過去を知り、自暴自棄に陥っている。このまま生きても、碌な人生が有る訳ない。道に迷い、左右どちらを選んでも結果は同じだ。悪いに決まっているよ》
「洸輝、その考えは良くないわ」
真美は俺の心を読んでいた。彼女が何かを考えているときは、気を付けなければいけない。
「あなたは独りで行くつもりなのね? それは、私が許さないから・・。これからは、私が一緒なのよ。ふたりで道を選べば、結果は必ず良くなるわ。そうでしょう、先生!」
「いや、待ってよ。俺の運命は真っ白で、先が見えない。だから、どうやれば真美を幸せにするかわかんない。そうでしょう、先生!」
「私が真っ白と言った意味は、悪いことではない。無という意味だから、将来を努力次第でどうにでも作れることだよ」
「やはりね。だから、私と一緒に未来を作ればいいのよ」
俺は何も答えることができなかった。俺の気持ちを察したのか、奥さんがアドバイスをする。
「洸輝君、私はあなたたちを応援するわ。私たちには子供がいないの。だから、ふたりが結婚できれば、三人の約束が叶うわ。ねぇ、あなた・・」
「そうだね、私に子供ができたようだ。嬉しいことだ」
真美が奥さんに呼ばれ、キッチへ行く。俺は先生とふたりになった。
「先生、でも運命の意味が分からない。運命とは、定められた人生でしょう。決められたことを変えてしまったら、神様に叱られますよ」
「すべては前世から決まっているという、宿命論がある。でも、私は違うと思う。俗に言うと、前世は人間ではないかも知れない。君なら、その場合をどう考える?」
「え~、そうですよね。考えられないです」
「でしょう? 持って生まれた運命とは、なんだろうか?」
俺は、難しい話に追従できず、深く考えてしまった。
「昔は考えられないことだが、今は血液で分かってしまう。血は争えないと言うだろう。
血液を分析すれば、家族の性格や体格まで判断できる時代だ。時には考え方まで似てしまう」
「・・・」
「持って生まれた運命とは、血筋や家族の絆のことだよ」