謂れ無き存在 ⅡⅩ
朝食を済ませ、早めに家を出た。今日の真美の運転は、昨日よりリッラクスしている。俺は落ち着いて座ることができた。講師の家まで、他愛ない会話をする。箕郷から下り、高崎市街地に戻る。国道17号に出て烏川沿いを走り、和田橋を渡って護国神社の近くにやって来た。
説明通りに左折する。直ぐに探すことができた。一際目立つ『運命を考える会』の看板が、家の前に建てられていたからである。
「あっ、これだ、この家だ」
真美は家の前の駐車スペースに車を停める。俺と真美は手を繋ぎ、玄関横のチャイムを押した。
「開いてますよ~、中に入って下さい」
先生の声がチャイム・ボックスのスピーカーから聞こえた。俺が玄関戸を開け、真美を先に入れる。
「先生、おはようございま~す」
俺は奥に聞こえるよう、大きな声で挨拶した。中から人の気配がして、直ぐに先生が顔を出す。
「やあ、良く来てくれました。おはよう・・。さあ、上がってください」
俺と真美は目礼してから、スリッパに履き替える。奥の居間に通され、先生と向き合いソファに腰かけた。先生は顔を綻ばせ、俺たちふたりの顔を交互に見る。俺は緊張しているが、真美は意外にも穏やかに笑みを浮かべている。
「う~ん、やはりお似合いだ。間違いなく運命同士のふたりだ」
そこへ、奥から上品な女性が現れ、テーブルの上に紅茶のカップを置いた。
「どうぞ、召し上がってね」
「まあ、ご馳走になります」
真美は屈託ない笑顔で、カップを手にした。
「あっ、女房の明恵だ」
「明恵です、宜しくね」
俺は背筋を伸ばし、挨拶をした。
「お邪魔します。横山洸輝と申します・・」
「存じていますよ。そちらは、真美、柘植真美さんね」
「はい、宜しくお願いします。でも、どうして私たちの名前を知っているの?」
先生と奥さんは、顔を見合わせてから微笑んだ。
「うん、ふたりのことは、以前から知っているんだよ」
俺だけでなく、真美も驚く。その様子に、奥さんは嬉しそうな顔を見せた。