ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 Ⅸ 

「分かった、一緒に行こう。でもさ・・。その前に、真美のことが知りたい」
 俺は気心が知り得たと考え、肝心な事を切り出す。すると、彼女の表情が硬化した。
「話すのが苦痛なら、追々でいいよ」
 真美を追い詰める気持ちはない。待つしかないと思った。
「いいえ、話すわ。もう、隠す必要がないもの。洸輝さんには、大事なことですものね」
 新しく紅茶を入れてくれたので、飲みながら頷いた。彼女は、カップを持って庭の見える窓際へ行く。立ったまま外を見詰め、紅茶を一口啜ると話し始めた。
「この家は、母方の祖父母の家。アメリカのミシガン州にいた私が相続することになり、昨年の五月に日本へ帰って来たの。でも、私独りで住むのが嫌で、高崎市内にアパートを借りて住んでいるわ」
「じゃあ、近くに家があると言ったのは、事実だったんだ」
「ええ、そうよ。ゆっくり話せるのはこの家と思い、途中で切り替えたの。正解だったわ」
 テーブルに戻り、俺と向き合って座る。
「えっ、何が正解?」
「・・・」
 真美は恥じらい、上目で俺の顔を見る。俺は直ぐに察し、照れ隠しに笑う。
「あっ、あぁ、そうだね・・。フフ・・」
 急に新たな表情を見せる。物静かだが毅然とした様子。その中に悲愴感が漂っていた。真美の話に、俺は姿勢を正す。
「ありがとう、洸輝さん。真面目に聞いてくれて・・」
「・・・」
 俺は小さく頷き返した。
「私も、洸輝さんと同じよ。産まれた時、既に両親はいなかった。ユダヤ系ドイツ人で父の友人夫婦に育てられたの。厳格な教育を受け、毎日がメランコリーな日々だったわ。でもね、私のことをメッチェンと呼んで可愛がってくれた」
「何、その言葉は?」
「ああ、ドイツ語で少女とか乙女の意味よ。面白いでしょう。ふふ・・」
「ふ~ん、君にぴったりだね。でも、真美という名前は誰が付けたの?」
「それは、この家の一人娘だった母の祖父母らしいわ」
 秋の夕暮は早い。いつの間にか、家の中が薄暗くなった。真美は話を止めて、家の灯りを点ける。俺の顔にチラッと目線を送ると、冷蔵庫を覗き込む。
「夕飯を用意するけど、食べるでしょう?」
 今日はバイトの仕事も無かったので、俺は頷いた。彼女はナポリタンを作るようだ。
「あっ、俺も手伝うよ」
 真美は嬉しそうに笑顔を見せる。
「本当に・・?」
「うん、いつも自炊しているから、真美より上手いかもしれない」
「いいえ、私の方が味付けは上手よ」 


 

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