ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 Ⅶ 

 運転中の真美は、真剣な眼差しで前方を見詰めている。白い肌の耳元に、小さなほくろを見つけた。その横顔に俺は見惚れる。
《真美の奥に秘められた、本当の姿が分からない。実際のところ、歳だって曖昧だ。幼く麗かな表情を見せるかと思えば、年上の気品さが滲み出る》
 車は彼女の言葉とは裏腹に、可なりの距離を走っている。高崎市街地を出て、榛名山に向かう。漸く途中の箕郷梅林を過ぎたころ、舗装されていない小道に車を入れた。
「真美さん、どこへ向かっているのですか? 住んでいる家は街中では・・」
 先方の雑木林に近づくと、洒落た洋風の家が見えてきた。
「あれが私の家よ。少し遠かったけど、騙すつもりはなかった。ごめんなさいね」
「いや、いいよ。これから行く用事なんて、特にないから」
 簡素な門構え。俺が先に車を降り、門を開けて車を通す。俺は門を閉めると玄関まで歩いた。庭の手入れは程々にされている。鉄筋コンクリートの二階建ての家は、想像以上に古かった。
 中はこざっぱりした感じであった。板敷の居間には使い込まれた絨毯が敷かれ、歩く音を和らげている。
「そこへ、座って待ってね。今、お茶を入れるから・・」
 俺は食卓テーブルに座り、居間の中を見回す。妙に生活観が感じられない。だが、居心地の良い空間が心に温もりを与える。
 しばらくして、紅茶を運んで来た真美は、俺の隣に座った。
「はい、どうぞ・・。これはダージリンだから、ストレートでいいのね」
「うん、ありがとう」
 俺は、もう驚かない。真美には裸同然だからだ。
「私もシュガーを入れないで、飲んでみようかしら。ふふ・・」
「そうだね、渋みがあって美味しいよ」
 真美は一口を含んだ。
「ほんとだ。渋いけど美味しい。私も癖になっちゃうわ。あなたと同じにね」
 真美は嬉しげに自分の小さな肩で、俺の体を小突く。俺はお返しに、人差し指で真美のおでこを軽く突いた。
「ふふ・・、アハハ・・、面白い、ウフフ・・」
「アッハハ・・、笑っちゃうな・・、ハハ・・」
 ふたりの笑いは、部屋中にこだました。突然に笑いを止めた真美が、真剣な眼差しで俺を見る。
《エッ、なんだ、その目つきは?》
 真美はじっと目を離さず、俺に近づいて来た。俺は自然に身を構え、息を大きく吸い込む。それは、ほんの瞬間に済んでしまった。
「わぉ~、どうして?」
「愛のキッス・・」
 真美は恥じる様に、顔を染めて言葉少なく囁いた。
 

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