謂れ無き存在 Ⅱ
「俺の運命が真っ白! そうですか・・」
「いや、がっかりしなくても、いいと思うよ」
講師は、俺の目を見詰めた。ふっとため息を吐き、俺の肩をポンポンと叩く。そして、一枚のメモを俺に渡した。
【君に話すことがある。いつでも良いから、私の家に来なさい。住所は裏に書いてある。できれば、来る前に電話を掛けて欲しい】
「それでは皆さん! 次回にお会いしましょう」
机上の書類を片付け、カバンの中に仕舞う。講師は、俺に目礼すると部屋から出て行った。他の受講者と共に、俺も部屋を出る。
《俺に話すことがある? 何故だ。それに、俺の運命が真っ白だって・・。夢を見れば運命が変わる・・。本当かなぁ~。妙な先生だけど、何か気にかかる》
茫然としながらも、無意識に階段を下りた。公民館の玄関ホールで、女性から呼び止められ振り向く。
「俺を呼んだ?」
「はい、突然にごめんなさい」
俺は邪険な返事をしたが、女性を見た瞬間に目をしばたたく。
《え~、俺には縁のない美人だ》
「い、いいえ。ウッ、ウン。俺に何の用事ですか?」
俺は慌てて咳払いをする。
「今、お忙しいでしょうか?」
「とんでもない。暇で、暇で困っています」
俺のピント外れな答えに、世にも美しい微笑みを見せる。その微笑みに、俺の軽い脳みそは完全にぶち壊された。俺は狼狽え、視線を合わせることができなかった。
「良かったわ。少しお時間を頂けませんか? 近くのファミ・レスで、お茶でもどうかしら・・」
《おい、おい、麗しき女性からのお誘い・・。断るなんて罰が当たる》
「は・・、はいっ! 喜んでお受けします」
俺の大げさな返事に、又もや見事な微笑みを返された。彼女はしなやかに歩く。俺はしもべの様に従った。
テーブルに着くなり、彼女は俺の顔を見ながら、俺が好む紅茶を頼んだ。
「紅茶で宜しいんでしょう?」
《どうして、俺の好みを知っているんだ。え~、なんでぇ~》
唖然とする俺に、視線を向ける。
「不思議に思っているでしょう? 何故だか知らないけれど、あなたの心が私には見えるの」
「ええ、驚きましたよ。俺の心が見えるなんて、怖い人ですね」
「ごめんなさいね。でも、他の人ではダメなの。あなたの心だけよ」
彼女の言葉に、俺の脳みそはボロボロに崩壊した。