謂れ無き存在 Ⅰ
今、人は夢の中にいる。本当の現実社会を知らない。それで良いのかと悩む。いや、悩む必要はないのかも・・。夢こそ現実だからだ。人は夢を見ながら生きている。最後の時に、現実を知る。歩んだ人生を後悔するか納得させるか、自らに判断を委ねるためであろう。
人の生き方は、産まれた環境でほぼ決まる。だが、運命が多くの道を選択させ、環境を徐々に変えて行く。多くの選択こそ、夢である。どの道を、どのように選ぶか。もし、まったく同じ道を選ぶ人がいたとしても、産まれた環境が異なるので同等の生き方は有りえない。
但し、重要なことは産まれた環境ではない。大切なことは、感情である。運命が与えた道を、己が信じた感情で選択すれば、人生が大きく変わる。
運命は不思議な言葉だ。かっこいいと憧れる言葉でもある。だが、運命の真実は、不公平で卑劣な言葉だ。多くの人が運命の言葉を信じ、翻弄されている。時には、運命なんか信じないと、豪快に広言を吐く人もいるが、実際は翻弄され苦渋を味わった人に多い様だ。
《確かに、俺も翻弄されているひとりだ。運命なんて信じたくない。でもなぁ~》
俺は、中央公民館で開かれた無料のセミナーに参加した。チラシに『あなたの運命を考えよう・・』と書かれてあり、ちょっと興味を持ったからだ。
「君にとって、運命とはなんですか?」
俺は一瞬、言葉が見つからず返答に窮した。周りの参加者たちも首を傾げている。
「ん~、難しい質問で、難しい答えです」
仕方なく、咄嗟に出た言葉だった。
「そうです。正解です」
講師が、手を叩きながら私の答えを絶賛する。俺は唖然とした。
「えっ? 意味が分かりません・・」
「いいんですよ。運命はプロセスではなく、結果です。生涯の運命を解き明かすことは無理です。難しいことが運命ですから・・。運命を長い期間で見てはダメです。夢をたくさん選びなさい。その一つ一つが運命ですから、確認しながら人生を歩むんです」
俺は耳を疑う。信じられないが、この講師の説明は俺の心肝にドスンと大きな穴を開けた。
「でも、先生! ますます混乱して、意味が分かりません」
「私には、君の運命が見えています」
「本当ですか? どの様に、見えるのですか?」
「君の運命は、真っ白です。それは、君の心を反映しているからですね」